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優&愛 ◆1aw4LHSuEI 硬い音。無機質な、冷たい音。規則正しくリズムを刻む。 この廃墟となったビルの暗い廊下。静かに響き渡った音。 剥き出しのコンクリートの上を幾人かで歩いている様だ。 廊下には窓が無く、夜明け過ぎの今でも闇が満ちていた。 丸い光が揺れながら進み行く。闇を切り裂いて広がる光。 懐中電灯によるものだろうか。照らされた床は不均一だ。 その間に見える宙を舞う埃がまるで霧のようにも見えた。 三人の人間が歩いていた。 一人は、一行の最前列を歩く赤のチャイナドレスを着た短髪の少女。その瞳は何を含んでか、爛々と怪しく光っている。 一人は、二番手を行く黒の制服を着た少年。辛いことでもあったのか。甘い顔に見合わない厳しい表情を浮かべている。 一人は、最後尾を勤める少女。ゴシックロリータ調の服を着て膨れ面。少々機嫌が悪そうにしながら後ろを付いていく。 「そういやよお、旦那」 静寂を破るように先頭の少女が顔を半ば後ろに向けて言葉を発する。 無言のまま廃墟を歩き続けることに飽きてしまったのかもしれない。 ……状況的に見て、恐らく旦那というのは自分のことなのだろうな。 そう考えたルルーシュはサーシェスに何だと素っ気ない返事をした。 「どーしてこんな廃ビルを探索しようと思ったんだ?」 言っちゃあアレだが、こんなところに何かあるもんかね。 廃ビルだぜ? 廃ビル。名前通りに荒れ放題じゃねえか。 軽い口調で言うサーシェスに、ルルーシュも軽く応えた。 「随分と今更な質問だな。もう最上階だぞ」 「まあなあ。けど今更に気になったんだから仕方ねえだろ」 気になった。と、いうよりはここまで全く成果が上っていないことが原因か。 結果さえ出ていれば、人は多少の理不尽にも耐えることが出来る。だが……。 上手くいかなければ納得済みだったはずの事さえ疑惑が浮かんでくるものだ。 黒の騎士団を纏めていた経験から、ルルーシュはそれを充分に承知していた。 「……サーシェス。お前はこの施設をどう思う」 「ぁあ? どうって、どういうことだよ」 「単純に、感想としてでいいさ。廃ビル、という施設を聞いてどう思う?」 「……はあ、そうだな。なんつーか分不相応な感じがするな」 一瞬考える素振りをして、サーシェスは軽く答えた。 二人の話し声だけが、冷たく静かな廊下に響き渡る。 「ほう」 「他の施設はなんつーかアレだ。確かに訳わからねえのもあるが、何となく特別なのは分かる。 けどよ、『廃ビル』っつーのは普通って言うか……ただのボロいビルだろ?」 「施設として地図上に示してあることに違和感がある、ということだな?」 「ああ……。まあ、そういうことかな」 「それだ」 「はあ?」 「普通なら描写されるまでも無い建物が地図上にわざわざ描かれている。 つまり、逆に言えば描かれるだけの何かがある、ということだ」 「一見ボロいだけのこのビルにか」 「一見ボロいだけのこのビルにだ」 「はぁん。なるほど」 旦那は色々考えてんだな。そう言ってサーシェスは肩をすくめる。 それで、と。話のついでと言うように振り返り憂に向かって聞く。 「お譲ちゃんは何も思ったりしなかったのかよ?」 「別に……。私はルルーシュさんの指示に従うだけですから」 「へえ。随分といい子ちゃんなんだな」 「おい、サーシェス……」 「へいへい。無駄口はこのへんにしときますよ、っと」 唇を釣り上げて笑った後、前に向き直って探索を続けるサーシェス。 このあたりの切り替えの速さはやはりプロかと、ルルーシュは思う。 「……と、そんなこんなでやっとだが、これがこの階最後の部屋だな」 「そして、屋上を除けばこのビルで唯一未探索の場所、か。よし、サーシェス。開けてくれるか」 「あいよ」 目の前に現れたのは鉄製の硬く閉じられた扉。 磨硝子もはめ込まれていない無骨な金属の塊。 冷たい把手を握り捻り、最後の部屋は開かれ。 「――――あれ、固え」 なかった。 「……サーシェス?」 「開かないんですか」 「や、まてまて。ノブは回るから鍵がかかってる訳じゃねえ……。あー、畜生! 古いから錆び付いちまってんのか!? くそっ、くそっ! 開け開け!」 端正な顔をゆがめて紡がれるのは似合わぬ悪態。 柔らかそうなその唇を不機嫌そうに捻じ曲げて。 スリットが翻り太腿が覗くのも一向に気にせず。 サーシェスは扉に何度も何度も蹴りを咬ました。 しかし扉もなかなか強情で動く気配は見せない。 「開かないなら俺が代わりに……」 「や、旦那は無理だろ。もやしだし」 「そうですよ。ルルーシュさん。無理はしないでください」 「――お前達。俺をなんだと……」 運動不足。かつ過労気味の貧弱な学生だと思われている。 現実は非情である。男性として体力的に頼られない存在。 それが悪逆皇帝、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアだった。 尤も、憂としては怪我を心配しての言葉でもあるけれど。 「仕方ねえ。旦那に無理させるわけにもいかねえし、ここはいっちょ本気出してみっか!」 構えを取り、集中。理論的に考えていた反射速度に限らない肉体強化。 電気と磁力により足のツボを刺激し、キック力を遥か増強させる――! 繊細、かつ大胆な電流のコントロールによって高まっていく脚の筋力。 チャージ完了。気合も充分。掛け声一発みせて、放つは必殺回し蹴り。 「ちょいさああァァーーーーーーーーーー!!」 紫電が走り軌跡を描く。直撃と同時に響き渡る轟音。 幾ら硬く閉じられた扉とて耐えられるものではない。 「いよしっ、開いたぜー」 「……ああ、良くやった。サーシェス」 「ははっ、それほどでもねえよ」 「…………」 ここぞとばかりに過剰なほどの賛辞を送るルルーシュ。 満更でもないのか目を細めてそれに応えるサーシェス。 そんな二人を白い目で見た憂はどこか機嫌が悪そうに。 それを無視して一人で先に部屋の中へと入っていった。 「…………」 「…………」 残された二人は顔を見合わせて。 片方は肩をすくめ笑みを浮かべ。 片方は額を押さえ溜息をついた。 ● ● ● 【憂の場合】 どうしてだろう。 いらいらする。 どうしてだろう。 気に入らない。 あの人が。 あの人と話しているルルーシュさんが。 なんとなく……もやもやする。 不透明で、よくわからない。 どこかしらもどかしくて手が届かない。 どうしてだろう。 あの人が視界に入る。 心が、ざわめく。 …………。 わからない。けれど、これだけはわかる。 私は、あの人が嫌いだ。 ● ● ● ……それにしても頭が痛い。 廃ビルの探索を終えたルルーシュ・ランペルージは、ホバーベースの制御室で額を押さえて考えた。 結論から言えば期待以上の結果だった。――いや、はっきりと想定以上のものが出たと言ってもいいだろう。 あの後、三人で最後の部屋を調査した結果、サーシェスが棚が二重底になっていることに気付き、 その下からデータディスクが見つかったのだ。 他の箇所も充分な捜索をしたが他には何も見つからず、それのみを探索の成果としてホバーベースへと帰還した。 ――――その、中身が問題だった。 帰ってきて早速中身をチェックしたルルーシュは驚愕することになった。 ……それは、首輪の詳細な設計図だったのだ。 ある程度以上の機械技術、知識。充分な工具。 それさえあれば十全に――とまでは言わないものの、十分に首輪を解除できるだろうという予想が出来るほどに詳細な。 なぜ、こんなところにこんな情報があるのか? くるくると左手でデータディスクを回しながら――右手は骨折している――ルルーシュは考える。 …………いや、この情報がここにあったことをどう考えるべきか? 普通に考えれば、こんなところにこのような貴重な情報があるはずがない。 否、あってはならないのだ。 折角首輪という方法で参加者を拘束しているというのに、それを自ら解く方法を会場内に残すなど本末転倒もいいところ。 例えるならば、牢屋の中、囚人の手の届くところに出口の鍵を置いておくようなものだ。 ここまで準備された計画だ。主催がうっかりとミスをして配置した、という可能性は限り無く低いだろう。 いや、そもそも探せば見つかる程度にではあるが隠蔽されていたのだ。偶然置かれたとは考えにくい。 誰かが何らかの目的で設置したと考えるのが自然だろう。 ……と、なれば考えられる可能性は大きく二つに絞られる。 一つは主催者は首輪を外すところまでをゲームと考えている。だから、分かりにくいが見つからなくはない箇所に情報を隠していたという可能性。 もう一つは運営側に参加者達に協力するような人間がいて、脱出のための情報を流しているという可能性。 このどちらか……いや、こんな怪しい施設にあからさまに配置されていたことを考えれば……前者の可能性が高いだろうか――? ……予想していなかったわけではない。 随分と前から首輪を外すことがゲームのうちだという予想は立ててきた。 その裏付けが取れた。それだけのことだと言うことも出来るだろう。 だが、予想が当たることは決して嬉しいことではない。 そうであるとするならば、首輪を外したところで未だ主催者の手の中から抜け出せていない、ということに他ならないのだから。 つまり、元の世界へと帰還しようと思うなら、首輪を外すだけでは――足りない。 更にもう一手。主催者、リボンズ・アルマークの裏をかく鍵が必要となる。 そのためにも、今使える手札――騎士団の面々――を最大限活用しなければいけない。 何一つ無駄に出来るような余裕は、ないのだから。 だからこそ―――― 「――ルルーシュさんっ♪」 ハッとして、閉じていた目を開く。 探索の後シャワーを浴びてくると離れていた憂が戻ってきたようだ。 答えるために顔を上げたルルーシュの目に映ったのは楽しげに笑みを浮かべる憂。 少しだけその髪に湿気が残っているのを感じる。 「どうですか、この服。そろそろ汗かいてきちゃったし着替えたんですけど……似合ってます?」 はにかんで笑う彼女は確かにさっきまでのゴスロリとは違う服を着ていた。 くるり。その場で一回転。 スカートが翻り螺旋を描く。 ふわりと捲れ上がったそれはしかしその中身までさらけ出すようなはしたない真似はせず。 腿と靴下の間に絶妙の領域を作り出すに留まった。 ……少しだけ、ルルーシュは呆けて見とれた。 クリーム色のその服は、彼に取って見慣れた、或いはどこか懐かしいアシュフォード学園の制服だったからだ。 「……ああ、いいと思うぞ」 「ほんとですか? あはっ」 ……ルルーシュは少しだけ状況を忘れて少しセンチメンタルな気分になる。 その制服は、彼にとって日常の証だったからだ。 学園の一生徒とゼロとの二重生活を続けることはルルーシュにとって大きな負担だったに違いない。 それでも決して学園に通うことを辞めようとはしなかったのは。 ……打算もあっただろうが、平穏を感じていたから、という理由も少なからずあったのだろう。 その制服を平穏とは程遠いこの場で、ギアスで操り傀儡にしている少女が着ているというこの状況で。 何も感じ入ることがないほどに、ルルーシュは理性的に生きられているわけではなかった。 ――本当に、本当に少しだけ。 芝居も無しに、口元に自嘲を含む笑みが浮かぶ。 「ゴスロリばっかりだと飽きちゃいますしね!」 「……そうだな」 ああ――――それにしても。 ゴスロリ、やめてしまったのか……。 似合っていたのに……。 …………。 ……頭が痛い。 そんなことを思うルルーシュだが、顔には微塵も出さずに。 嬉しそうにはしゃぐ憂と戯れるのだった。 そして、暫しの後。 「さて、それはそれとして出かけるか」 「はい? どこへですか?」 「折角着替えたんだ。新しい服でショッピングといこうじゃないか」 気軽に女の子をデートにでも誘うように。 ルルーシュ・ランペルージは手を差し伸べた。 ● ● ● 【ルルーシュの場合・1】 表情には出さない。 態度に出すことはない。 けれども、自分の中で膨れ上がるそれを抑えきることができない。 その感情の名は――不安。 ――どうやって逃れればいい? この殺し合いから。 現状、具体的な目処など何も立っていない。 考えれば考えるほどに逃げ場が失われていく。ただ、行き止まりだけが明らかになっていく。 憂やサーシェスに漏らすことはないが――弱音の一つでも吐きたい気分だ。 けれど――それを許してくれる相手は、状況はここにはない。 虚勢を張ってでも、貫かねばならない。 トップが弱さを晒しても、同情がもらえるはずもなく。 悪戯に部下の不安を煽るだけなのだから。 ――そもそも諦めることなどできない。たとえそれが那由他の彼方でも。 俺には、俺たちにはやらなければいけないことがある。 続けなければいけないことがある。 そのためにも、ここで果てるわけにはいかない。 最初から、道はない。 この先がたとえ袋小路だとしても――進むしか、無いのだ。 だが――。 どうすればいい。 首輪を外すことはその気になれば十分に可能だろう。 けれどもその後にどうすればいいのか。 いや、そもそも外してもいいのだろうか。 これほどあからさまに首輪を外せと言わんばかりに置かれた情報。 首輪を外すことは主催者たちの思惑通り……。 むしろ、ゲームを次の段階に進めるだけなんじゃないか? ――少なくとも、その可能性を捨て去る訳にはいかない。 と、なれば。軽々しく首輪を外すわけには行かなくなってくる。 これ以上の情報が望めるかはわからないが……。 少なくともスザクと合流し、情報の交換と戦力の補強を行った後のほうが好ましいだろう。 ――慎重になりすぎているか? だが、今すぐに首輪が爆破されるというわけでもないのだ。 慎重と臆病は違う……が、ここはまだ慌てる場合じゃない。 まだ猶予はある。ならばその与えられた時間をできる限り有意義に使うべきだ。 なにしろ、首輪を外した後に何が待ち受けているのか、俺たちには想像もつかないのだから。 わからない。そうだ。俺たちは未だ何の解決の糸口もつかめてはいない。 主催者が有している戦力はどれほどのものなのか。 ――軽く見積もっても参加者総員が力を集めたよりも少ないとは思いがたい。 こちらを一掃出来るだけの武力。それを持っていないと考えるのは流石に楽観がすぎるだろう。 足りない。これから購入しようとしている機体とて、向こうに用意されたものだ。 全ては奴らの手のひらの中――。本当に抗うことが出来るのか。 ――笑えてくる。 いつだって変わらないな。 絶望的な状況は何度もあった。 これは、その中でも最大級だ。 だが、俺のやることは変わらない。 余裕ぶった態度でいよう。 大物のように見せかけよう。 敵も味方も騙し通そう。 最後まで。 それが、それだけが。 この俺が果たせる、唯一の役割だから。 ● ● ● 紅蓮弐式(ぐれんにしき)。 初の純日本製にして第七世代相当のナイトメアフレーム。 全高4.51m。全備重量は7.51t。 基本性能としては、全体的に高く、特に機動性能に優れている。 だが、何よりも注目されるべくは右腕部に搭載された「輻射波動機構」だろう。 このシステムは右掌から高周波を短いサイクルで対象物に直接照射することで、膨大な熱量を発生させて爆発・膨張等を引き起こし破壊するというもの。 掴んだKMFの装甲や武装の加熱破壊の他、輻射波動によって発生する振動波によって砲撃から機体を丸ごとガードする障壁としての使い方もある。 また右腕は大型に加え伸縮機構が備わっており、KMF1機ぶん離れた間合いでも射程圏内に入る。 まさに必殺兵器と呼ぶにふさわしく、この紅蓮弐式というナイトメアフレームの代名詞のような武装である。 (wikipedia参考、抜粋) 「これが……紅蓮ですか」 紅に染められたスリムなボディ。 見るものを威圧するような長大な右腕。 ホバーベースに搭載されたナイトメアフレーム、『紅蓮弐式』を見て平沢憂は放心したようにそう呟いた。 「ああ。そして、これからお前の愛機になる」 「……すごい」 カタログスペックだけでは分からない紅蓮弐式という機体の芸術的完成度。 圧倒的な才能を持つ憂はそれに何か感じ入るものがあったのか。 ルルーシュの言葉にも反応を返さず見惚れたように紅蓮を見つめていた。 「……これ、本当に私が使ってもいいんですか?」 「勿論だ。今、俺達の中で一番ナイトメアの操縦が上手いのはお前だからな。 三億ペリカと決して安い買い物ではなかったが、十分以上それに値する結果を出せると信じている。 期待しているぞ、憂」 「はい!」 にこやか笑顔を浮かべる憂。 それに応えるルルーシュ。 何も事情を知らずに表情だけを見ていれば。 ――ひょっとして、仲のいい兄妹の様に見えるのかも知れなかった。 「えへへ……。ねえ、ルルーシュさん。お腹すいてませんか?」 「ん? ……そうだったな。結局後回しにしたんだったか。悪いな、憂。作ってくれるか?」 「任せてください! 今度こそ私の手料理ご馳走しますね!」 そうして和やかな空気のまま。 平沢憂は格納庫から飛び出していき。 ルルーシュが一人、そこには残された。 「ふぅ……」 ため息が、一つ。 目線の先に映るのは紅蓮弐式。 ルルーシュにとっても印象深い機体。 かつて頼りになる手足であった彼女。手足でなかった彼女が搭乗していた機体。 それをもう一度、自分に服従する少女を乗せるという事実は――どこか、滑稽にもルルーシュには思えた。 勝つしか無い。そのためにはためらってなどいられない――。 言い聞かせるまでもない。ちゃんと理解している。迷いもない。 だが――。 「考えていても仕方ない、か」 五飛とヴァンの首輪を換金し、廃ビルの施設特徴「まとめ売り」で安く売っていたオートマトン三機を一億ペリカで購入。 後々のことを考えて、残しておくペリカを計算に入れれば、これが今できる最大限の装備だ。 今の手札でどこまで勝負になるだろうか。 ルルーシュは考察に入るが、どこまで行こうとも所詮は机上の理論。 果たしてこの物語の行く末がいかなるものか。 さて、それは。やってみなければわからない。 ● ● ● 【サーシェスの場合】 好き? 嫌い? 好き? なあんか、知らねえけど、あのお嬢ちゃんに嫌われてるのか俺? おかしいよな。こんなに紳士に振舞ってるってのによ。 はは。ま、それは冗談だとしても、仲が悪いのは問題だよな。 いや、一方的に敵視されてるだけで、俺としちゃあむしろ気に入ってるんだがね。 やっぱ、さっきまで敵だったってのがまずいのか。 弱るよなー。甘い甘い甘い。あれほどの才能があってもやっぱりお嬢ちゃんってことかね? 昨日の敵と手を結び、さっきの味方の背中を刺す。 それぐらいは心得て欲しいもんだぜ。 ……いやはや、しかし。ここは。あれだな。 仲を深めるためにでも、トークタイムと洒落込みますか――。 ● ● ● 「いやあ、羨ましい限りだな、お嬢ちゃん」 「…………」 ホバーベース廊下にて。 戦争狂と殺人者は遭遇した。 この廊下には二人だけ。冷たい廊下に二人きり。 正直なところを話してしまうと、憂はこの傭兵が苦手だった。 いや、もっとはっきりと嫌いだ、と言ってしまってもいいかも知れない。 何故か。と聞かれても困る。 さっきまで殺し合いをしていた相手だから簡単には割り切れない、というのもあるだろう。 けれどもそれ以上に。 生理的嫌悪感。自分でもよくは分からないけれど。 あまり近寄りたくないと、そんなことを思っていた。 だから、ルルーシュがいるわけでもないこの場で取り繕って仲良くなどしたくない。 そんなことを考えて、少女はかけられた言葉を無視して通り過ぎようとした。 「まあ、待てよ」 手を伸ばし、行く先を遮るもまた少女。――少なくとも、外見は。 不快そうに眼を細めて平沢憂はアリー・アル・サーシェスを見た。 「なんですか」 うざったい、という気持ちを隠そうともしない口調。 そんな様子を物ともしないでサーシェスはにやりと笑う。 「おいおい、一人だけ新しい機体買って貰ったからって調子に乗ってねえ? 俺とは立場が違うってかよ」 「――不満だったんですか、リーオー?」 「ははっ、なーんちゃって、うそうそ! お下がりの機体は慣れてるし、別にあいつも悪かあない。 相手が生身なら充分バケモノどもだって相手できるだろうからな。贅沢言う気はねえよ」 「だったら、何の用ですか」 「いーじゃねえか、ちょっとぐらいお話しようぜえ? 俺、あんたのこと結構気に入ってんだよ」 「……私は、」 あなたと仲良くする気はないです。 そう、告げようと口を開きかけたその瞬間。 憂の意志とは無関係に目に映る光景が変わり、背中に覚える衝撃。 「――――っ!? なっ……」 「――そう冷たいこと言うなよ。傷つくだろ?」 サーシェスは憂の手を取って体ごと壁に押し付けた。 当然のように憂はもがいて離れようとするが、体ごと密着されて逃れられない。 暫く暴れそれを理解して、怯えたような、憤るような顔を憂は見せる。 それが気に入ったのか。にやけた表情を浮かべてサーシェスは互いの顔を呼吸を肌で感じるほどに近づけた。 「……くっ、離せ……!」 「おいおい。落ち着けよ。こんなのスキンシップだろ?」 嫌悪感を耐え切れず暴れる憂だが、どうも体に力が入らずうまく動かない。 外見上、身体能力的には大して変わらないはずの少女に一方的に抑えこまれてしまう。 それはサーシェスが傭兵として培ってきた経験からの拘束術。 如何に力が女子中学生の域まで落ちていたとしても、何の訓練もない少女を動けなくするには充分なものだった。 憂はしばらく抵抗していたが、やがて無駄だということが分かったのか、力を抜いて大人しくなった。 「……。なんの、つもりですか……。」 「ぃやぁぁぁああぁぁっと、俺の話を聞いてくれるみてえだな。嬉しいねえ」 顔に似合わぬねちっこい眼をしてサーシェスは哂う。 戦争狂が元の姿のままならば身の危険を感じるところなのかもしれないけれど。 自分と大してかわらぬ少女の姿であるためにそこまでの考えには至らず。 憂は苦々しげにサーシェスを睨みつけるという反応だけに終わった。 「……用があるなら、手短にしてくれませんか」 「旦那のために飯作るんだっけか。ははっ、可愛いねえお嬢ちゃんも。 ……そう睨むなよ。わかったわかった。本題に入るさ」 「……はやくしてください」 できるだけ視線を合わせないようにしながら、憂は言う。 そんな様子を知りながら、勿体付けるように貯めてサーシェスは世間話のようにそれを訊いた。 「――――なあ、お嬢ちゃん……。あんたはどうして人を殺す?」 憂は少し呆然とした。 そんなことを言われるとは思っていなかった。 そして、もうひとつ考えた。 それはルルーシュと出会ったばかりの頃、同じようなことを彼に訊かれたときのことだった。 「どう、して……?」 固まってしまった憂に追い打ちをかけるように、サーシェスは言葉を続ける。 「――――ああ、その通り。人間って奴はどんな理由だろうと人を殺せるもんだ」 例えば正義、例えば信仰、例えば愛情、例えば友情、例えば憐憫、例えば拒絶、 例えば憤怒、例えば自由、例えば使命、例えば後悔、例えば約束、例えば自愛、 例えば肉欲、例えば食欲、例えば金欲、例えば快楽、例えば名誉、例えば他愛、 例えば狂気、例えば正気、例えば善意、例えば悪意、例えば退屈、例えば満足、 例えば復讐、例えば平和、例えば慈善、例えば相違、例えば誤解、例えば理解、 例えば偽善、例えば超然、例えば支配、例えば苦痛、例えば怨恨、例えば嫌悪、 例えば求愛、例えば偶然、例えば必然、例えば運命、例えば信念、例えば感動、 例えば崇拝、例えば期待、例えば障害、例えば堕落、例えば諦観、例えば決意、 例えば警戒、例えば保険、例えば当然、例えば貧困、例えば憂鬱、例えば救済、 今日もどこかで誰かが誰かを殺す。めくるめく多彩な理由を持って。 「……人は、理由なしに人を殺せねえ。だがな、どんな理由であれ人は人を殺す。 俺には分かる。どいつもこいつもが俺の目の前で殺して殺して死んでいったお蔭でな。 ……だったら、お嬢ちゃん。あんたの願いは、理由は何だ? あんたは一体何を求めて殺人を犯した?」 さも愉快そうに戦争狂は語る。 気圧されたのか呑まれたか。 引きつった顔で少女は言葉に詰る。 「わ、私は……」 「んん? 私は……なんだよ? お嬢ちゃん」 平沢憂はアリー・アル・サーシェスを正しく理解していなかった。 しかし、少女としての直感か。本能的に悟っていた。 それを今、理性的にも理解する。 こいつは危ない。 離れたい。ただその一心で、憂は質問に答えた。 ルルーシュに尋ねられたときと、同じ答えを。 「死にたく、ないから……! 私は、生きていたいから……!」 「……へえ、だから、殺したってぇのか? 自分の為に? 他人を取り除いてぇ!?」 「それが……なんだっていうんですか!!」 ――口から出た言葉は、ほとんど悲鳴のようだった。 「悪いですか!? 生きていたいって、それだけが理由で、人を傷つけちゃいけないんですか!!?」 「仕方ないでしょう!?」 「私は私は私は私は私は私は私は私は私は」 「私は!!」 「死にたくないんです! だって……!」 「何も無いのに!」 「大切な何かを!」 「無くしてしまったのに!」 「だから!」 「ただ、生きていきたいだけなのに!」 「ここで死んじゃったら……!」 「死んでしまったら!」 「本当に、なにも掴めないで終わってしまう!」 「私にはなにも無いってことになってしまう!」 「そんなの、嫌だ」 「私は、嫌だ……」 「死にたくない!」 「死にたくない!」 「生きていたい!」 「だから!」 「私は、私は、それだけで!」 「人を殺して傷つける……!」 「でも……!」 「……それって、悪いことなんですか!?」 涙をにじませて吐き出される言葉。 追い詰められた感情の発露。 彼女は何を失ってしまったのだろう。 彼女は何を得てしまったのだろう。 ああきっと。 『献身』 それが彼女の起源。 だけどそれも諸刃の剣。 ブーメランの様に自分へ帰る。 ひとえにもたらされる奉仕は相手のみならず自身にすら依存をもたらす。 真に向かうべき『献身』の対象を、あらゆる意味で失った。 心から世界から。損なわれた最愛。 そんな彼女に生きる意味も死ぬ意味も。 ――――殺す意味も。 伽藍堂の身では求められるわけもなかったのだ。……自身では。 だから、代わりを得た。 誰かに代わる誰かを得て。理由の全てをそこに委ねた。 空っぽの自分を、抜け殻のような希望を。 彼に従うという手段が、目的に変わっているという矛盾にすら気づかずに。 ……いや、その事実から目を逸らして。 ただの一度誤った。「生きたい」というのが自身の願いだと思い込んで。 けれども……誰が彼女を責められようか? 彼女だって普通の、一人の女の子に過ぎないというのに。 「ああ――勿論お嬢ちゃんは悪くねえ」 「――――え……?」 ははは、と。 ははははははは、と。 ははははははははははは、と。 ははははははははははははははは、と。 アリー・アル・サーシェスはさも愉快そうに哂った。 「誰もが誰かを犠牲にして生きている。生きるってことは誰かを犠牲にするっつーことだ。 信念? 愛? 正義? 信仰? 名誉? 快楽? 阿呆らしい!! 誤魔化さなくたっていいんだぜ! 何を恥じることがある? 生きるために殺すってのは、他のどんな理由よりも健全で正しい、生物として当たり前のルールってやつだ! 胸を張れよ、お嬢ちゃん。俺の見る目は正しかった。気に入ってるぜ、惚れ直した! ――――やっぱり、あんたはこっち側の人間だ……!!!」 平沢憂は硬直してその言葉を聞いていた。 激昂が醒めていく。 泪が引いていく。 きもちわるい。 違う。そんなのじゃない。 ……こいつは、違う。 自分が知っている、誰とも、違う。 「ち、違う……」 「ぁあ?」 華菜さんと、違う。 阿良々木さんと、違う。 安藤さんと、違う。 ルルーシュさんと、違う。 桃子ちゃんと、違う。 式さんと、違う。 デュオさんと、違う。 五飛さんと、違う。 澪さんと、違う。 あの、バーサーカーとすら、違う。 こんな奴は、 「いっしょに、しないで……!」 逃げたい。 逃げられない。 だけど精一杯の勇気を出して、憂はサーシェスを睨みつけた。 「……は。怖がらせるつもりは別に無かったんだけどな」 ぱっ、と。 にやけたままにサーシェスは体を離して憂を解放した。 憂は一瞬だけ呆けた。まさかこんなに簡単に開放してくれるとは思わなかったからだ。 その後で目が覚めたようにサーシェスを振り払って疾走する。 気持ち悪かった。少しでも遠くに行きたい。 振り返らずに走りだした憂の背中に、サーシェスの声が響いた。 「お嬢ちゃんよ! 何も謙遜することはねえんだぜ? 誇れよ。 あんたには戦争屋の素質がある。それも、この俺以上の、人殺しの天才を名乗れるだけの才能がだ。 受け入れな。愛しい恋人のように。自分の醜悪さを。そうすりゃきっと――――」 俺みたいになれるさ。 そこだけは、ふざけた口調じゃない。なんでもないことかのようにサーシェスは言う。 憂は分かった。分かりたくないけれど、分かった。 ……こいつは本気でこんなことを言っている。 何のつもりかはわからないけれど。嫌がらせでも何でもなく、ただ、自分の思ったことを言っている。 ……関係ない! 後ろは振り向かない。振り向けない。 怖くて、辛くて、震えていた。 ただ我武者羅に、懸命に走った。 そのうち幾分か離れてサーシェスの気配もなくなったころ、足がもつれて転んでしまう。 痛かった。 憂は目を閉じて少しだけ考える。 サーシェスの言ってることはおかしくて、てんで的外れだと思うけれど、同時に全てを否定しきれない自分もいた。 ……やっぱり、よく分からない。 目を開いた。冷たい廊下の床が見えた。瞳から涙が零れた。なんだか悲しかった。 それでも、立ち上がる。ルルーシュのためにご飯を作らなければいけない。 何となく惨めで、何となく負けたみたいだ。しゃくりあげる声はなかなか止まない。 だけどルルーシュには心配をかけたくなくて。 憂は玉ねぎをいっぱい使った料理をつくろうとそのとき決めた。 ● ● ● ――そして第五回定時放送は告げられた。 ● ● ● 時系列順で読む Back 夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 上- Next 優&愛(後編) 投下順で読む Back 夢 ユメモノ 物 ガタリ 語 -ころもリミット 上- Next 優&愛(後編) 288 GEASS;HEAD END 『再開』 ルルーシュ・ランペルーシ 優&愛(後編) 288 GEASS;HEAD END 『再開』 平沢憂 優&愛(後編) 288 GEASS;HEAD END 『孤独』 アリー・アル・サーシェス 優&愛(後編)
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255 :名無しさんなんだじぇ:2010/12/29(水) 03 45 37 ID 1UeJnRhM みんなわいわいがやがやと楽しく過ごしているが、アレを忘れていないか! というわけでいくつか考えたネタの内、出来たところまでを投下。 ~~死者スレ・たまり場~~ とーか「突然ですが、これから貴方達に大掃除をしてもらいます」 「「「「「な、なんだってー!」」」」」 カイジ「…この光景ってどっかで見たことないか?」 部長「所謂お約束の反応ってやつよねー」 利根川「しかし何故大掃除など、っと聞くのも野暮だな」 黒桐「この一年間で大量の物が溢れていますからね」 会長「ゴミを放置した結果が先日のG騒動を引き起こしたしな」 五飛「うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」 ゼクス「ハハハ、ワタシニハナンノコトダカワカラナイナ?」 ユフィ「な、なんであれ綺麗さっぱりな状態で新年を迎えるためにも大掃除をしましょう!」 閣下「それでは諸君、エレガントを心掛けて掃除をなしたまえ」 ~~死者スレ某所~~ 刹那「しかし、俺の部屋は掃除しようがない程片付いているが」 ヒイロ「同感だ。必要最低限の物以外を持ち合わせることがないからな」 デュオ「いや、平時の青少年が部屋の中にパイプベッドと机だけしか置いてないとか質素過ぎるっていうレベルじゃねーぞ!」 紬「ガンダムバカ、手が空いているのならアジトを掃除してくれないかしら?それとザ・自爆には格納庫を任せたいけど?」 刹那「わかった」 1「任務了解」 紬「よろしくお願いします」 アーニャ「ツムギ、今は手空いている?貯め込んだ記録を一緒に整理してほしい」 紬「ごめんね、今からバンドの練習部屋の片づけをしなくちゃいけないの。代わりにデュオさんを連れていってね」 アーニャ「(神原も不在、あれを片付けるには人手が必要……)わかった」 デュオ「って俺の意思なしで話が勝手に進めるなよ!?」 アーニャ「何か不都合?」 デュオ「……あーもういい、俺も暇だから手伝ってやるよ」 256 :名無しさんなんだじぇ:2010/12/29(水) 07 15 17 ID 79WAQnmE バサカ「では、スコップを借りていきますね」 アーチャー「む? スコップなど、何に使うつもりだ?」 バサカ「ちょっと川の流れを変えて、まとめて押し流そうと思いまして」 アーチャー「 ……その方法はやめろ――!! 」 【バサカ アウゲイアス式大掃除 未遂確認】 遅くなったけどラジオの人GJ!! 257 :名無しさんなんだじぇ:2010/12/29(水) 16 48 24 ID TcbJLyr. ~~死者スレラジオスタジオ~~ 玄霧「それでは現パーソナリティーのお二方にはスタジオの清掃を頼みます」 筆頭「OK!そんじゃ、この中にある道具を全部外に出すぜ」 神原「部屋の掃除はその後だな」 玄霧「では安藤さん、ここの指揮はあなたにお任せしますね」 安藤「わかりました。じゃあ、最初にこのテーブルを…」 藤乃「あの、部屋の掃除が終わったのですが…」 玄霧「おや、随分と早かったですね」 藤乃「まだここに来て日が浅いですから、あまり物も置いていませんし」 玄霧「そうですか。でしたらスタジオの清掃を手伝ってもらえませんか?」 藤乃「という訳でお手伝いに参りました」 安藤「じゃあ藤乃さんは神原さんと一緒に向こうの片づけをしてください」 藤乃「わかりました。神原さん、よろしくお願いします」 神原「こちらこそよろしくお願いします。ところでこの機会に藤乃さんに尋ねたいことがあるのだが」 藤乃「はい、なんでしょうか?」 神原「うむ、実は本編でライダーさんとイチャイチャしていたことについてだが」 藤乃「なっ、あれはいちゃついていたわけでは!」//// 神原「まあそこは否定してもらっても構わないが、私の今後の活動に役立てるためにいろいろと…」 筆頭「Hey、神原、talkより手を動かしな」 安藤「それにいまここで話を聞いてしまうと後のラジオで話題がなくなってしまいますよ」 神原「ふむ、それは困るな。仕方がない、ここは自重しよう」 筆頭「放送でも自重しろ変態」 ~~おまけ・スルー推奨~~ C.C.「~♪」 マリアンヌ「……なんでC.C.が掃除をしているのかしら……全く想像していなかった光景なんだけど」 C.C.「!!!」(物陰に隠れてマリアンヌをチラ見) マリアンヌ(えっ!!何いまの反応!!) C.C.「あ、あのう、どちら様でしょうか?…あっ!も、もしかして、新しいご主人様でしょうか!?」 マリアンヌ「まさかのギアス習得前の人格モード!!!?何があったのよC.C.!!!」 ※今ではどうでもいいことだが、クリスマスの夜に誤ってたまり場が『大掃除』されそうになってたね。
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crosswise -white side- / ACT1 『PSI-missing』(2) ◆ANI3oprwOY /PSI-missing(2)/あるいは阿良々木暦の俯瞰風景『接続(善)』 強烈な圧迫感が全身を打ち据えていた。 鼓膜に叩きつけられる風切り音は、金切り声のように甲高い。 僕は飛ばされないように必死で踏ん張っている。 もう、目なんか到底開けていられない。っていうか顔を前に向けることすら至難。 少しでも口を開ければ見えない異物感が喉の置くまで進入し、呼吸困難を引き起こす。 「枢木! いくらなんでも速すぎる!」 戦場から離脱を開始してより数分、ランスロットの速度は段違に上昇していた。 手の平に乗った僕等のことなんか若干無視した勢い。 分っている、そのぐらいの速度じゃないと駄目だ、確かにそうだ。 だから僕はいい、耐えられる。 だけど腕の中に抱える天江が、もう限界だ。 「構うなあららぎ。衣は大丈夫だから」 呟かれる言葉は力強く、だけど苦しそうだ。 僕は少しでも天江の負担が減るようにと、彼女を抱え込むことしか出来ない。 「けど、……?」 更に言葉を続けようとして、しかし急に当たる風が軟化した。 轟々と耳をイカれされていた音が弱まっている。 きつく閉じていた両目も、薄っすらと開くことが出来た。 「なっ」 僕の身体越しに天江もポカンと、それを見る。 いつのまにか、真っ白い修道服に身を包んだインデックスが僕達の正面に立っていた。 「何を、してるんだ?」 彼女はこの風の中で微動だにせず、僕等の前で風を受け止めている。 相変わらず冷たく、無機質な、感情を感じさせない視線で僕達を見ていた。 「私には、『歩く教会』の防護があります」 素っ気無い言葉一つだけ。 インデックスは僕等に背を向けて正面を見据えた。 原理は分らないけど、風除けになってくれるってことか。 「……ッ」 内心で、歯噛みする。 どうして僕はこういつもいつも、出来ることが無いんだろう。 あの場に残ってグラハムさんの助けになることも出来ず、 天江を救うこともルルーシュ頼みで、 風除けすらインデックスより役に立たない。 まして、この状況を打開する方法なんて浮かびやしない。 ランスロットはビル街の小道(といっても大通りと比べての小道だ。ランスロット大のロボが通れる位の道幅は在る)を疾走している。 速度は手の乗った僕らが振り落とされないギリギリの……いや多分、許容範囲を超えている。 これほどの勢いで移動して僕らが無事なのはきっと、枢木の操縦の腕が特段に良いからだ。 実際、僕にはそんなの分らないけど、そうでも思わなければとても乗っていられない。 「くそ、せめて飛んで行ければ……」 ランスロットには飛行機能があるらしい。 それでも地上を進む理由は敵に見つからないためだ。 せっかくグラハムさんと式を囮にしてまであの場から離脱したというのに、 空中に飛び上がってしまえばすぐに発見されてしまうだろう。 もともと空中を移動してこなかったのは信長に見つからないためなんだ。 それが一方通行に遭遇してしまって、こうして分散するはめになっているけど……。 「もしかしてアイツ……僕等の居場所が分かってるんじゃ……」 それは最悪の予想だった。 だけど実際出会ってしまっている以上、否定しきれない予感。 前回の襲撃といい、今回の待ち伏せといい、タイミングが不自然すぎる。 どうにもこちらの動きを読んで仕掛けてきているような、周到さがあるのだ。 もしそうなら、アイツがグラハムさん達を無視して僕達を追ってくる可能性は捨てきれない。 背後から今にも奴の笑い声が追ってくるようで。 いや、それ以前にグラハムさん達はまだ無事なのか。 もうやられてしまっているんじゃないか。 ああ、駄目だ。ネガティブな考えしか浮かんでこない。 「プラスになることを考えろ」 自分に言い聞かせるように、口の中で小さく呟く。 一人で腐ってたってしょうがない。 それじゃ本当にただの役立たずだ。 僕にしか出来ないことを考えるべき。 この場で、操縦に集中している枢木と、ディートハルト。 追い詰められている天江、何を考えてるかも分らないインデックス。 その中で僕にしか出来ない事は、まあ、地味ながら、さっきからやってはいるんだけど。 「ていうかいい加減、繋がれよっ」 通信機を耳に当て、ルルーシュへとコールする単純な仕事。 まずは奴に僕らが移動し始めたことを教えなければならない。 合流を急ぐ意味はもちろんある、天江の時間はもう残り少ない。 更にグラハムさんと式への援軍の見込みも、もうルルーシュ以外にかける望みが無い。 この状況を打開するためには、どうしても奴の強力が不可欠だ。 諦めず懲りず、繋がるまではコールし続ける。 「それ、と」 もう一つ、さきほど考え付いた作業を開始する。 コックピットで機体の操縦をしている枢木に、僕の考えを伝えないと……。 □ □ □ □ ジェットコースターのような逃避行の中で、 僕らが辿り着いたのは巨大なショッピングセンターだった。 地図に記された要所の一つでもある、南西の巨大施設だ。 ショッピングセンター第二駐車場。 僕らはいまそこにいる。 ショッピングセンターを出てすぐの場所にある、屋外駐車場だ。 ちなみに第一駐車場はショッピングセンターと直接繋がっている立体駐車場を指すらしい。 後は北上して、ルルーシュと合流する予定。 けど、その前にやることがある。 「枢木……いけそうか?」 「金額は足りてる」 枢木の腕の再生だ。 ショッピングセンターのサービスを利用して、枢木の片腕に義手を接続する。 式が教えてくれた情報は間違っていなかった。 枢木、僕、天江、インデックス。 第二駐車場に備えられた首輪換金機の前にて、四人で見据えている。 『青崎燈子の義手』と記されたタッチパネル式の画面を。 「…………」 枢木は黙したまま、指先で画面に触れて、サービスの使用を選択した。 しばし、静寂の間が入る。 少々、時間が掛かるようだった。 僕はその間にルルーシュへの通信を再度試みた。 相変わらず電波状況は最悪のようだ。 何度コールしてもノイズしか聞こえない。 それでも僕はルルーシュへと呼びかけ続けていた。 枢木の腕が治れば、状況は改善する。 僕は枢木と話した結果、そう結論をつけた。 枢木は言っていた。腕が万全でさえあれば、ランスロットで空を行ける、と。 それはつまり、例え一方通行に発見されようと、操縦技術が戻ればルルーシュとの連携がすぐにでも可能になる。 枢木にはその自信があるということだ。 天江を助けたい僕にとっても枢木にとっても、理に叶っている。 だからここに来た。枢木の腕を直しに。 僕は賭けた。ルルーシュとの合流、それが活路になることを。 「…………まだ……か?」 いぶかしむ枢木の声が聞こえた。 僕も通信機を耳にかけたまま、自販機を見る。 冷蔵庫大の金属箱は沈黙を守ったままだった。 「壊れている?」 おかしい。 薬局の例をなぞるなら、ここから主催の者が現れ……ってパターンが予想できる。 けれど、一向に何も起こらない。 このままじゃ最悪無駄足だ。またしても主催者の罠が仕掛けられているのか……? なんて事を考えていたとき、突如背後から、内臓を震わせるほどの地鳴りが聞こえて―― 「「「…………!!!???」」」 『ずぅぅぅん』と太く重たい尾を引いて、僕らの腹の中をかき回しながら抜けていった。 僕も、枢木も、天江も、一様に振り返る。 何の……音だ……? 背後に聳えるビルの山脈の向こうで何が起こっているのか。 分らないけど。嫌な予感以外の何も感じない。 急がないと。 そう思って再度、自販機を見たとき。 「お待たせしました。 これよりサービスを執行します」 誰かが唐突に、抑揚無く語りだした。 「本来、この場でのサービスを担当していた者は現状では動けないようです」 声に一同全員、振り返る。 そう『振り返った』のだ。 現れた誰かを見るのではなく。 それは僕らの内の一人を、すたすたと枢木に歩み寄り、真っ白い修道服の長い袖に通した腕を伸ばす、 「よって、禁書目録が代行として魔術の行使を行ないます」 主催者、インデックスに、全員の視線が集中していた。 「な……」 突然のことに、僕を含めた全員が絶句するなか。 差し伸べられたインデックスの手の平の上に、何かが形作られていく。 「使用治癒術式の厳選開始――完了。 前執行者が使用していた異世界魔術の応用が現状にて最も短時間にて発動可能な魔術と認識。 術式使用方法の照合――完了。 治癒に必要となる義腕部の転送は滞りなく遂行。 ――警告。腕部接続時の術式に禁書目録の理外の法あり」 凄まじい早口で何事かをまくし立て始めた少女に、僕らは呆気に取られるしかない。 それ以上に異質なのは、彼女の手の上に乗せられていたソレ。全員が凝視していた。 「い、インデックス……?」 心配そうにインデックスを見ていた天江の視線も、もちろん固定されている。 それは、一本の腕、だった。人間の腕だ。血の通った腕、ビクンビクンと胎動している。 断面からは骨と血が見える。何故こぼれ出さないのか疑問なくらいに、生々しい。 「前執行者の術式を解析―――――――失敗。 警告。同様の工程では術式の再現は不可能。 前執行者の異世界魔術工程を参考に、独自の解釈で魔術の再解析を試行―――――成功。 結果から逆算、媒体の効力のみを解析、同様の奇跡の再現が可能。 警告。この術式の使用は禁書目録独自の魔術仕様が必要。 魔術使用許可を申請――許可されました。禁書目録にかけられた制限の解除を確認」 誰にともなく……自分にか? 留守電を再生するかのように、淡々と言葉を重ね続けるインデックスを、みなが唖然と見守る中で。 彼女は枢木へと、両手に抱え持った『腕』を差し出した。 「接続はすぐに終わります。傷口をお見せください」 「ちょ、ちょっと待てよ……! インデックスお前……!」 背筋を冷たいものが伝う。 鋭い刃物が背骨に当てられているような、無視できない寒気だった。 こいつが今言ったことは、原理とか魔術とか分らないけど、 やってることはつまり主催者の立場に身を置く奴の振舞いだ。 これはどういう事だ? インデックスとディートハルトは主催を裏切ったんじゃないのか? だから彼女は天江を助けたいって、思ったんじゃないのか? そんなやつがどうしてサービスの執行なんか……。 「やめろ」 インデックスの肩を掴もうとしてた僕を、枢木の手が阻んでいた。 「けど」 「尋問は後でいい」 見下ろせばインデックスもまた、冷たく突き放すように僕を見上げている。 「ここで時間を費やすことは、本意では無いはずです」 その無機質な声、無感情な瞳、思えば最初に見たときから何一つ変わっていない。 変わってはいなかった。 僕は大きな勘違いをしていたのかもしれない。 だとするならばこれは、この状況は未だに主催者の手の上って事になるんじゃないか……? 「……わかったよ」 僕はインデックスへと伸ばしていた手を引っ込める。 確かに枢木の言うとおり、今はこれより優先することがある。 一刻も早く腕を直すことが、先決だ。 天江は一刻を争う事情を抱えているんだ。 インデックスのことはその後で考えるべきだろう。 今はそれより―― 僕は腕の接着を開始した枢木達から視線を切って、背後を見る。 駐車場から少し離れたところには、ランスロットに乗り込んだディートハルトがいる。 インデックスより、奴の狙いが分らなくなってきた。 奴ははっきり言ったんだ。『我々』は裏切り者だ、と。 にも拘らずインデックスは、未だに自分が主催者側の人間なのだと、隠す気がなかった。 奴は何かを僕達に隠している。思えば肝心なことは何も言って無い。 天江の制限時間に、僕の目はきっと曇っている。 なにか……重要なことを見落としているような……。 『ザザザ――ブッ…………』 その時、耳の中で聞こえた音に、僕は意識を引き戻された。 通信機が、通話状態になっている。 「ルルーシュ!? おい聞こえるか!? 今僕達は――!」 僕は救われるような心地で状況をまくし立てた。 不安材料はあるけど、状況は好転してきている。 これでルルーシュからの援護が得られる。 枢木の腕も治った。 状況だけ見れば、悪くない、希望の光は消えてない。 通信が繋がったということは、多分ルルーシュと僕らの位置が近づいてきてるってことだ。 合流は近い、援軍が近づいてきている、グラハムさんと式を助けられる。 僕らの戦力は完全になる。後はどうやって一方通行を撃退するかを編み出せすかだけど。 そこは智将ルルーシュの出番だろう。 僕はその後に、奴と対決することになるかもしれない。 それでも今は目の前の敵への対応が必要なのだから。 「ザザザザ――!」 やっぱりノイズが酷い。 すぐにでも切れてしまう事だろう。 とにかくこっちの状況だけでも正確に伝えないと。 そう思って声を張り上げていた時だった。 ――状況は立て続けに巻き起こる。 それに、僕は気が付いていなかった。 「……何だ?」 ざわざわと、背後が騒がしいことが気になって振り返る。 天江が、僕の背後、ランスロットの更に背後を指差してた。 腕の接続を終えた枢木もそれを見る。 次にインデックスが、最後に僕が振り返って……。 「――――!?」 天江が指差した先には、一棟のビルがあった。 ショッピングセンターに向かい合うように建てられた建造物、けれど天江が指差していたのはそれ自体じゃない。 その上の、屋上にあったものだ。 巨大な給水機か何かの陰になっていて今まで見えなかったんだろう。 いやそれにしたって何故アレに気がつかなかったのか、皆目検討もつかないけれど。 天江によって、その姿が認識できるようになった瞬間。 「あれは……ナイトメア……フレーム……?」 枢木の呟きが聞こえた。 それは確かに、あのナイトメアと呼ばれるモノなのだろう。 大きさが大体一緒くらいに見える。 だけどあれは、ランスロットとも、サザーランドとも違う。 知らない機体だ。でも今はそんなことが問題じゃなくて。 問題はその機械が抱えた巨大なロケット砲みたいなものが、僕らの方向に向いている、ことで……。 「……こ、ここから離れろォッ!!」 僕は全力で叫んでいた。 叫びに応じるように、天江が一歩下がった。 僕が叫ぶ前から、枢木は既に動いていた。 インデックスはそ知らぬ顔で行動を開始した。 皆がばらばらの行動を取る中で―― 僕等に向けられていた災厄の銃口は厳かに、閃光と焦熱を迸らせた。 □ □ □ □ 「ザザザザッ――あー、あー、もしもし? ノイズ酷いっすねー、聞こえてるっすか?」 『まだなんとか……聞こえてるよ。でもこれ以上距離が開くと途切れちゃうかもな。で、そっちはどうだ?』 「いやぁー、なかなか期待通りにはならないみたいで。死人はゼロみたいっすよ。 やっぱり直接狙わないとあたらないっすね」 『そうか、でも、目的は達成できたんだろ?』 「あ、はい。そのあたりに関しては上々っす、足止め完了しました。 むこうのロボットも瓦礫の向こう側、あの人たちだけじゃどかすのは無理そうっすね。 埋まってなくても、道が塞がってるようじゃ誰にもたどり着けないっす」 『敵の機動兵器は封じた、か。ならもう十分だよ。お前はこれ以上動かなくていい。 同じポイントに敵が来れば逐次砲撃してくれ。それだけでいいから』 「了解っす。とは言え、もう誰も戻らないと思うっすけど……」 『それでもだ。無理に動かれて、勝手に死なれたら私が困るんだよ』 「あーはいはい、分りました。わたしはもうココから一歩も外に出ないっすから、澪さんは澪さんの仕事をして下さい」 『うん、分ってる。任せとけ』 「はい、任せました」 『じゃあ終り次第連絡するから、あの場所で落ち合おう』 「ええ、ではまた」 『…………なあ、モモ』 「なんすか?」 『……死ぬなよ?』 「澪さんは…………役目を果たしたら、適当に死んじゃっていいっすよ?」 『ははっ……やなこった』 通信が、切れる。 どことも知れぬ小さな部屋の中で、少女はソファにもたれかかっていた。 通信機に添えていた手を離して、もう片方の手に持ったそれを見つめる。 「んー、やっぱり本調子にはほど遠いっすねー。感覚全然ないっすよ」 ボロボロの腕の先に持つ、トリガー(引き金)。 それは、ナイトメアフレームの遠隔操作機器だった。 彼女には機動兵器を操縦した経験など無い、練習も積んでいない。 故にパイロットとして戦うことなど出来はしない。 しかし、『引き金を引く』事だけならば、誰にだって出来る。 「……ん」 引き金を、引っ掛けた指でクルリと回したその時、彼女はふと懐かしい気配を感じた。 それはもう遠い日の記憶にすら思える、あの肌寒い不条理(オカルト)の手触り。 ああ想定外がまた一つやってきた、と。 そんな、番狂わせの予感を確かに感じとりながら。 「それじゃあ、私達も……」 今は兎も角、と。 彼女は開け放たれた窓の外を見つめ。 ふっと、口元に笑みを浮かべて、小さく小さく呟いた。 「戦闘開始、っすね」 □ □ □ □ /PSI-missing(3) 吹き上がる炎が大気を焦がし、立ち上ぼる陽炎が空間を歪ませる。 大出力のスラスターより噴出し、全長十七メートルにも及ぶ巨人の全身を持ち上げるそれは、空の世界へ飛翔を為さしめる光の翼だった。 深紅の人型戦闘兵器、ガンダムエピオンは轟々と金緑色の軌跡を描きながら空を登り往く。 敵対するモノに対抗する唯一の手段をその装甲と、その掌に宿して舞い上がる。 「耐えてくれよッ!」 男が叫ぶ。 巨体の内側にて、操縦桿を握るグラハム・エーカーはこの時、パイロットとしての真価を問われていた。 この程度の機体上昇、エピオンにとっては造作もない。機体が秘めるポテンシャルの一割にも満たない瑣事。 しかし、機体の手の内に抱え込まれている生身の両儀式に掛かる負担は計り知れない。 全速力の運動性能を引き出せば、装甲の内側にいるグラハムにすら命の危険が及びかねない程、この機体は本来から強烈な暴れ馬である。 それを御するのみならず、機体の外側に剥き出しなっている唯一の攻勢手段を気遣いながらの航行―― ましてや戦闘など、狂気の沙汰としか言い様の無い行為だった。 空を飛ぶエピオンを、追う影が九つ。いずれも大質量の砲弾だった。 金属の鉄柱、コンクリートの外装、木製の骨組み、雑多な物物で構成されたそれは、地に無数に建ち並ぶ建築物そのものである。 立ち並ぶビル、民家等がそっくりそのまま地より抜き放たれ、エピオンを追尾してくる。 ともすれば滑稽とも言える光景も、勢いがミサイルの如しならば脅威でしかありえない。 砲弾が描く軌跡、その全てが同一ではない。天に孤立する巨人を落とさんとする包囲弾。 取り囲むように、曲進してくる六発。僅かに遅れて円の内側から狙い撃つ、三発の直進弾。 安易な判断は許されない。 エピオンの全速力をもってすれば、容易に離脱もできようが、しかし急劇な高速航行は式の肉体を壊してしまう。 故に、勝利のために、この時のグラハムエーカーに求められている技能は以下の三つである。 一つ、両儀式に害の及ばない航行速度を維持する。 二つ、一つ目の制限を守った上で迫り来る砲撃をやり過ごす。 三つ、上記二つを完遂した上で反撃に転ずる。 不可能。まるで不可能な難題だ。 そもそも自然の摂理を数え切れぬほど無視した攻撃を前に、 エピオン最大の強みである機動力を封印したまま対抗し、あろうことか反撃に転ずるなど夢のまた夢。 ただの理想論である。妄想に過ぎない、非現実。 「ならば――」 そう常人ならば、脳裏に浮かぶ不可能の三文字によってすぐさま振り払う。 馬鹿げた妄想。 諦めることが、正しい道理であり、 「ならば、そんな道理、私の無理でこじ開けるッ!!」 しかし、違った。 この乙女座の男、グラハム・エーカーは違うのだ。 なぜならば、彼はしつこく諦めも悪い男、俗に言う人に嫌われるタイプなのだから。 「ぜえぇぇぇあぁぁぁッ!」 裂帛の気合と共に、繰る手綱。 グラハムは手元で暴れる駻馬を全力で押さえ込み、己の意志を叩き込む。 手始めに機体の左手を同じ位置に固定させ、左腕部のシールドを下方に突き出した状態で、残りの全身を更に上空へ押し上げて。 ――ときに、パイロットとMSの関係とは、つまりヒトとモノのコミュニケーションである。 しかしそれは常ならば意志の非意識の疎通となる。 内なる会話。人による訴えに対し、機械による従順な行為の変換。 グラハム・エーカーとガンダムエピオンのそれは、暴力的の一言に尽きた。 非意識ではありえないと思えるほどの、まるで意志を持っているかのような、機械の反逆が此処に在る。 逆らうはずの無い非意識が、手先で御せる筈の機械人形が、まるで言うことを聞こうとしない。 放つ命令に意義を唱える。否、否、否だと訴える。操れない、制御できない、という次元の理ですらない。 真逆、魔逆、操るものを操らんとする妖魔の業。 恐るべき事に反意の作用は機械の内側だけでなく、グラハムの内側にも生じている。 意識に、介入されている。 このような機体を、グラハム・エーカーは知らない。 人の反応速度を完全に無視した滅茶苦茶な機体スペック。 実戦を想定するにはあまりに不可解な武装構成。 そして、グラハムの脳裏すら操らんとする悪魔的システム――ゼロ。 暴れる、暴れる、暴れ続けて止まらない。 指先の繊細な動作など受け付けない。 今にもこの機体はグラハムの制御を振り切って、心を食いちぎって、解き放たれようとする。 抱え守る式など無視して暴発する。その速度で、彼女を殺す。 一瞬選択を誤るだけで、力加減を誤るだけで、呆気なくグラハムの意志など関係なく、制圧し、 自由を取り戻し、全速力で押し潰し、全てを壊し、下方の敵を殺し、勝利を、 そう勝利を、勝利を勝利を勝利を勝利を勝利を勝利を勝利を勝利を勝利を勝利を勝利を勝利を勝利を勝利を勝利を勝利を勝利を勝利だけを―― 「ああ、いいぞッ! 悪くない抱擁だッ! 私の心すら焼きつくさんとするのかッ!」 勝利を拒絶するならば此処に、もう一つあるモノは繊細な手技などではなく―― 「だがまだぬるいッ!ぬるいぞッ!もっと、もっとだッ!そうだもっと感じあおうじゃないかッ! 私からも、今こそ、抱きしめよう、ガンダムッ! 抱き合おうじゃないか、ガンダムッ!!!!!」 意中のモノの気を引き付けんが為の情熱的な、男の手技である。 押さえ込み捻じ伏せ組み敷き蹂躙せんとする、野太い腕である。 内なる炎をで鋼の機体を焼き尽くさんとする、情の抱擁である。 「さあ、行こうかッ! 力ずくで抱きしめ合おう! 私は全力で、君を抱きしめて放さんッ!」 そして始まる攻防戦。 向かい合った一つの意志と、一つの非意識。 ぶつかり合い、潰しあい、抱き締め合った、暴虐的な意思疎通は乱反射して戦場へと。 「ああそうとも!! 多少強引でなければ、ガンダムは口説けんからなぁ!!」 両儀式を抱えた手は固定。 どれほど、ガンダムが暴れようが、ここだけは動かさない。 譲らぬ一線、ゼロが示した偽りの勝利は、いかに勝利であろうと、グラハム・エーカーの勝利ではありえない。 「私の道を切り開け! 私に勝利を齎すならば! 君の力を示してみせろ!」 エピオンの左手を自ら封じる以上、使える攻撃部位は右手のみ。 グラハムに許された現状唯一の攻撃手段、機体の腰部にマウントされたビームソードを抜き放つ。 大気を焦がしつくす金緑色の刀身が、天を突き刺すように高らかに掲げられた。 まずは、先んじて向かい来る、六つの砲撃に対する迎撃を決行。 機体の向きを傾ける。 ビームソードを水平に構え、スラスターを吹かせながら、瞬間的にブーストすべき位置を調節し。 「はぁぁぁぁァッ!!」 『その場』で回転した。 同じ場所、同じ座標で、ガンダムエピオンの推進力をフルに発揮して機体の全身を回転させる。 ビームソードが、空間に何重にも斬撃のエフェクトを描き、斬る。 同時直撃を狙い打たれていた六の砲撃が、等しく同時に切り裂かれた。 それは既に達人の枠外にすら届きかねない。 驚嘆すべき機体制御力が成し遂げた、至宝とすら表現できるほどに磨きぬかれた経験と、 一握りの才能による、正しく『エース』パイロットの為せる技だった。 「ぐ……が……は……っ!」 代償は、多大なる圧力。 身体への負荷。 Gを一身に引き受けたグラハムは、 コックピットで血反吐を吐きながらも次なる動作を行なおうとする。 「……来た、か!」 直感的に察していた。 敵は近い、仕掛けてくる。 直後、予感違わず、エピオンの左腕部シールドへと横向きに激突した一棟のビル。 そこに加えられるインパクト。 盾の内側に守られた式を狙ってのものだ。 遅いと知りつつグラハムは対応を開始する。 しかし驚くべきことに、狙われていた式はとっくに対応を成し遂げていた。 衝撃が届く寸前、少女はその場で跳躍を敢行していた。 床下からの、不可視であった攻撃をを容易く、中空に飛び出すことで回避する。 古来の絶技、侍の歩法。 目さずとも、殺気の距離を測る、感じ取る、間合いの読み。 限定的ではあるものの、未来予知にも届く域の直感併用。 しかし、それだけで窮地を脱するには不足だった。 タイミングとしては完璧の跳躍も、 次の刹那に足場が消えてしまえば、身投げに等しい自殺行為に置き換わる。 式の反応が最適であっても、更に横方向からの攻撃に晒されたエピオンの動きには、同調していなかった。 少女の足場が消え失せた瞬間。 エピオンは砲撃の攻略に成功する。 がしかし、その一瞬の間に、グラハム・エーカーは肝心の両儀式を見失っていた。 「不覚ッ!!」 全ての砲撃を止め、撃ち落とした。 破片が無数に落ちていく中空。 舞い散る瓦礫をくまなく探れど、落ちる人影は見えない。 「どこに――」 「よォ?」 代わりに、 絶対零度の如き怖気が、 グラハムの背中に深々と突き刺さった。 「貴様ッ!」 機体を反転させ、エピオンの滞空していた位置より、更に上空を仰ぎ見る。 視界に映るものは、早朝の空と、天に浮かぶ雲と、エピオンを取り囲むように未だ浮く、空中でバラバラになった建造物の破片。 その内の一つ、中ほどで折れた高層ビル、横向きに落ちていくその上に立つ者が一人。 見間違いようの無い敵手の姿。 先の砲弾に紛れエピオンより更に上空に陣取った、一方通行の姿だった。 「そろそろ、逝っとくかァ?」 足場のビルを蹴り飛ばし、直下のエピオンへと喰らいにかかる。 これこそが十発目の砲弾。隠し球、変化球、魔球。 「まだだ」 両儀式という敵への抑止力を失ったいま、 敵の接近を持続的にを許すエピオンの装甲は、強度を失いハリボテに成り下がる。 矛は単体でも戦えるが、盾は矛と一体でなければまともに機能し得ないのだ。 接近そのものを回避するしかない。 即座にエピオン急降下を開始するエピオン。 しかしパイロットは己の動作に反する言葉を叫んでいた。 「まだ、退くわけにはいかんのだ」 戦闘が始まってから、そう長い時間は経っていない。 グラハムはこの一方通行との戦いで、回数にして三度の交差を越えてきた。 その間に、何度死線を潜ったか分らない。 しかしまだ足りない。スザクとの通信は電波状態が悪く、途切れたままだ。 北の集団と合流するには、まだ時間が足りないだろう。 これだけの時間では、あのか弱くも優しい少女の安全を確保するには足りない。 しばし、もうしばしの間。 もたせなければならないというのに、現状、矛を失った盾には時間稼ぎすらままならない。 エピオンの攻撃では何一つ出来ない。 先ほどまでは何とか保っていた、形式上の膠着状態すら、保てずしかし、グラハムは退けないのだ。 「認めん、認められんぞ私は!」 もう何度目かも分らない、絶対絶命。 紛れもない窮地。 されど同時に、彼の味方たる『矛』は、そう容易く折れるものではなく。 「おい、さっさと指示出してくれよ。オレも死にたくは無いんだけど」 「は――やはりな!」 落ち続けるガンダムエピオンの傍らで、同じく落下の一途を辿っていた高層ビルの、破片の上。 グラハムの確信通り、両儀式はそこにいた。 一方通行と同じように、シールドによって防がれ折れた一発目の砲弾の破片を足場にし、 灰色のビルの壁、コンクリートの上に、無傷で立っている。 あの一瞬、跳躍の瞬間、エピオンの手を離れた刹那の判断で、彼女は落下するビルの壁へと飛び移っていたのだ。 「私は信じていたぞ!」 「早くしろって」 「ああ、承知しているッ!」 とはいえ、このままでは地に叩きつけられる運命の少女へと、 エピオンの左手が伸び、拾い上げ、そして一方通行への道を作る。 「飛ぶぞ、両儀式ッ!!」 旋回するエピオンの腕。 装甲を蹴り飛ばし、ただ一人重力に逆らって、再び飛翔する少女。 その目前には、翳された一本の刀。 右手が柄を、左手が鞘を握り、キン、と鉄の音をたて、白銀の牙が顕となる。 今度こそ完全に黒鞘を破棄して、式は構えを取った。 鉄と空の路を駆け抜けながら、選択された型は――八双。 己の肩の上にて、左の手で柄を握り締める。 刃を水平に寝かせ、鋭利な切っ先を目前に向けた特殊型。 意味する技とは、殺法とは、殺傷力のみを追求する牙の刺突。 握るその古刀に、銘は無い。 煌く刃には曇り一つ無く、現世の空を今も、在りし日と変わらずに映している。 左手で放つ突き技を得意とし、無敵の剣とも称された一人の剣士が振るいし剣術。 かの日、それを実戦の元に行使した正義の凶刃。 決して紛うことの無い、名もなき名刀。鍛えし者の名を、鬼神丸国重といった。 「――――」 式は、空を見る。 金緑色の閃光が過ぎていった先に、澄み渡る掃天。 それに劣らぬ蒼き眼光をして今、降りてくる一方通行の姿を、確かに見据え。 大量の瓦礫と共に降りてくる声を、聞いた。 「ち、そォかよ。そンなに俺と闘りてェンなら、いっぺンだけサシで遊ンで――」 「――――」 踏み込みは、もう不要。 最低限の推進力は既に得ている。 じきに失われる前進だが、構わない。 いつか重力に囚われようとも、こちらから接近せずとも、斬るべき対象は自ら迫り来る。 そして今度は、決して逃がさない。 「オマエ……誰だ?」 「――」 質問に、少女は笑う。 『両儀式』は、とても女性らしい微笑で敵を迎えた。 「まァ、誰でもいいンだけどよ」 瞬間、爆ぜるような突き上げが、蒼天を穿つ。 両儀式は左腕を、弓の如くに絞りきった頂点から、解き放った。 腕、腰、足、回転する全身で狙い撃つ。 一点に込められた力は空間すら突き破るように、天へと伸ばされる。 もう同じ手は使わせない。 たとえ風圧の盾を展開されようとも、両儀式の切っ先は大気すら貫き通す。 空気の断層すら、殺してみせる。 今や中間の空を操ろうと、一方通行には迫る刃を止められない。 もうじき刃は空間を次々と突き刺し、刺し抜き、穿ち抉って、到達は数秒にも満たない間隙の後―― 「しゃァらァくせェェェェンだよッ!!」 相対する一方通行は、退避を選ばなかった。 掲げられる手。右腕が、更に上空へと伸ばされる。 空を掴むように、そこにあった塵芥を握る。 掃天に拡散した億万の瓦礫の破片、空気に充満した埃の粒、そのベクトルを、操った。 構成されたそれは、真昼に降り注ぐ流星だった。 上空より一方通行に触れた瓦礫の破片が、その全てが殺意の豪雨となりて炸裂する。 向かう先は当然、下方より迫り来る蒼き殺意、その刀身に収束する。 攻撃が避けられぬなら、その穂先を潰すまで―― 「「――――!!」」 瞬間、規格外の双方、同時に確信した。 突きの速度を、見切れず。 されど一方通行は構わず。 澄んだ刃にピシリと、僅かな亀裂が生まれ。 されど両儀式は構わず。 刃を伸ばす。 手を伸ばす。 そして、交錯する両者の影。 瞬く間もない、刹那の攻防の終わり。 上空に抜ける、両儀式の刀身が、砕けて散った。 下方に抜ける、一方通行の首に、薄く赤い筋が走った。 「――っ」 「……は」 苦む、両儀式。 哂う、一方通行。 決着、未だ訪れず。 両者、四度目の交差を終えていた。 刹那の先に、五度目の攻防を見据えながら。 □ □ □ □ /PSI-missing(4)/あるいは阿良々木暦の俯瞰風景『合流(悪)』 何も、見えない。 しばらくの間、僕の視界は完全にブラックアウトしていた。 痛みなんて、もう何度も経験しすぎていて、慣れてしまっていた。 だけど、見えないことは怖かった。 ええっと僕は……僕達はどうなったんだっけか。 イマイチ思い出せないけれど。 なにがどうなったのかも分らない。 どうなってもいい、そう思わないことも無かったけど。 これ以上失うものもない、そうかもしれないけど。 だけど、このまま僕が死ぬのも。 誰かが死ぬのも、不思議と、嫌なんだって、少しくらいは、未だに思えた。 「――――くぁ……」 奇声っぽい呻きを上げながら起き上がる。 身体は動く。ははは、じゃあ大丈夫だ。僕はまだ大丈夫だぞ。 それならきっと、他のみんなも大丈夫。そのはずだ。 そうじゃないと、困るんだ。 「…………あ」 景色が戻る。 平和な風景を期待していたわけでもないのに、覚悟していたはずなのに、呆気に取られる。 僕の目の前には抉られたアスファルトの路面と、薙ぎ倒されたビルと、炎と、瓦礫の山があった。 そして、目の前には、巨大なロボットが、横たわっていた。 あれは確か……ガンダム・エピオン……だっけか? 「なん……だ……これ」 なんでこんな所にあるんだよ。 式と一緒にあの交差点に残って、一方通行と戦っていたんじゃなかったのか? それがどうして……こんな近くに。 えっと、アレ、僕は、僕たちはいま、何やってたんだっけ? ショッピングセンター前にいて、それで枢木の腕が治って、それで隣のビルにロボットがあって、動き出して、砲撃……され……て。 てか、ああ、くそ、やっぱ駄目だ。もう、立てな…… 「立て」 い、と思っていたんだけど。 不思議と身体が軽くなった。 いや、肩を持ち上げられたのか、いつ間にか隣にいた枢木に。 枢木は、僕の身体を引きずるように支えながら、燃える風景の中、どこかへと歩いていく。 くそ……やっぱコイツ、けっこう身長高いな……。 なんて、ボケたことを思いながらも。 「天江は……天江……は……どうなったんだ……よ?」 酷い耳鳴りの中で、僕は何とかそれだけを聞いた。 生き延びているのか、どうなのか。 「生きている」 枢木は、簡潔に答えて、指差した。焼け焦げたコンクリートの道の先。 そこは、ショッピングセンターの第一駐車場。立体駐車場の入り口。 天江と……そしてインデックスが、立っている。 こっちにむかって何かを叫んでいる天江。 そして駆け寄ろうとしている天江を、煤けたシスター服のインデックスが、無表情のまま袖を掴んで止めている。 良かった。ふう、あの馬鹿、そんなとこにいないでさっさと逃げろよ。 僕なんかに構ってどうすんだっての。 「って、なんで、だ?」 「なに?」 「なんでだ、いったいどこに行こうとしているんだ、僕達は」 「分るだろう。あそこだ」 僕の問いに枢木の指が、やはり立体駐車場を指している。 「ここは危険だ。ひとまずあそこに逃げ込んで、やり過ごすしかない」 「逃げ込む? あの、駐車場に?」 いや、待てよ。 まて、まてまてそれは、駄目だ、駄目すぎる。 やり過ごすだって? そんな時間、もうないのに。 「馬鹿いうな。なんでそんなこと、ランスロットは……!?」 アレに乗ればすぐにルルーシュ達の所に着くんだろ。 お前の腕が治ったら、飛行ユニットが使用できてそれで、なんとかなるんだってそういって……。 なのに、枢木は頭を振ってただ一言、こう言った。 「何を言っている? ランスロットはいま……そうか、君は見ていないのか。兎に角、いまは無理だ。後で説明する」 「そん……な。危険なら尚のこと隠れてる暇なんてない。 早くルルーシュのところにいかなきゃ駄目なんだろう……!」 こいつはさっきから何を言ってるんだ? ガラガラと音をたてて、足場が崩れていく感覚がする。 「君こそ馬鹿を言わないでくれ、いやまて……君は、もしかしてまだこの状況が分っていないのか?」 そうして怪訝そうな顔をした枢木が、ソレを指した。 「もう一度、アレを見てみろ。そして考えろ」 壊滅したショッピングセンター周辺を。 いや違う、幾つかの建造物を下敷きにして横たわる、ガンダムエピオンを、だ。 あ……ああ、なるほど、それで理解力のない僕にも流石に伝わった。 エピオンがここにある。 つまり、グラハムさんがここにいる、つまり、 「はは……」 なるほど、そういうことかよ。 ああ、なんて、ことだ。 「分ったろう。奴が、すぐそこまで来ている」 枢木の言葉を聞くまでもない。 エピオンがここに在るということは、自然、それと闘っていた者もここにいる。 よく見れば、エピオンの、大空へ伸ばされた手の平の上、そこに両儀式が見えた。 そして彼女は下方を、地面を見下ろしていて、そこに、そこに――奴がいた。 忘れもしない。 白髪の、赤目の、狂気の、超能力者の、一方通行。 奴も、式を見ていた。 もう僕からは視線を切り、エピオンと繋がるヘッドセットを通して、連絡を図ろうとする枢木。 応えるように、エピオンの腕が動く。 それはつまり中にいるグラハムさんもまだ生きているっていことだ。 斜めになった腕を式が駆け下りる。 奴も、一方通行も動く。 なんて、化け物だ。 襲撃、待ち伏せときて、次は戦地誘導。 僕は、僕らはそれを、愕然と見送るしかなかった。 あってはならない事が起こってしまう。 戦場が、僕らに追いついてしまった。 揺れ続ける僕の視界では、間違いなく、絶望的な状況が再び動き出している。 天江衣の死まで、残り時間、約三十分。 いまだ、希望との合流は成らぬまま。 再び僕らの目の前で、殺し合いが始まっていた。 【 ACT1 『PSI-missing』-END- 】 時系列順で読む Back crosswise -white side- / ACT1 『PSI-missing』(1) Next crosswise -black side- / ACT1 『疼(うずき)』(一) 投下順で読む Back crosswise -white side- / ACT1 『PSI-missing』(1) Next crosswise -black side- / ACT1 『疼(うずき)』(一)
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想い の 翼(前編) ◆aCs8nMeMRg 揚陸艇の格納庫内に、向かい合わせに座っている少女が二人居た。 東横桃子と秋山澪だ。 秋山澪の傍らには、平沢唯の死体が寝かせてあり、その上には診療所から拝借してきたシーツが掛っている。 「…………」 「…………」 しばらくの間、黙って座っていた二人。 その沈黙を最初に破り、口を開いたのは桃子だった。 「それ、手当てしないんすか?」 そう言って、桃子は自分の頬を指さす。 澪の顔についている傷の事を言っているのだろう。 「これは、いいんだ」 澪は頬を軽く押さえながらそれだけ言った。そして、再び沈黙する。 それから少し経った後。 「そろそろっすね」 そう言って桃子は何かを探すように格納庫内を見渡しながら立ち上がり、 格納庫の壁面に設置されているスイッチを見つけると、そちらへ歩いて行った。 その際、桃子がチラッと見た時計の示していた時間は18時直前。あと数分で放送というタイミングだった。 「んー、多分これっすね?」 ただの女子高生である桃子にも、この格納庫の天井に当たる部分がシャッターのように開閉できる構造だという事は中から見て分かった。 なら、壁面にあるスイッチはそれを操作するためのものだろうと見当をつけての行動だった。 自信無さげに首を傾げながらも、桃子はいくつかあるスイッチの内OPENと表示されているスイッチを押すと、 桃子の思った通り、格納庫の天井が稼働した。 「な、なに?」 澪はそのことに驚いたような声を上げると、慌てた様子で立ち上がった。 桃子がステルス状態を解除しているといっても、それは意識して気配を消そうとしていないだけで、 近くにいても気付かれないほど影が薄いという、彼女の体質が変わったわけではない。 どうやら、澪は少し前から桃子の事を見失っており、天井の動作が桃子の操作によって起こった事だとは分からなかったようだ。 そんな澪をよそに、桃子は自分の位置から空が見えるくらいに天井が開いたところでSTOPスイッチを押し、天井の動作を止める。 「もうすぐ放送っすから」 「えっ? あ、ああ。東横さんか」 その後、桃子の方から近づいて声をかけたところで、ようやく澪は桃子の事を認識し、天井が動いた事も桃子の仕業だと理解した。 「はい。さっきのままじゃ放送が聞こえないと思いまして」 「そうか」 「もし、三つ編みさん達が来たら、あなたがやった事にしておいてくださいね」 「ああ、わかった」 そうしている内に、第三回定時放送が始まった。 ……………………… ………… …… … 「残り26人、か。あいつ、呼ばれなかったな……」 放送を聞き終えた澪は、死者にしるしを付けた名簿と禁止エリアにチェックを入れた地図に視線を落としながら呟く。 桃子はその横で、なにやら端末を操作し始めた。 「ん? なんだ、それは?」 「これっすか? 死んだ人とおくりびとの顔写真が表示されるっす」 放送が近づき、桃子は【死亡者・おくりびと表示端末】を人に見られないようにするという黒の騎士団行動方針の元、 ルルーシュからこれを預かっていた。 そして、澪は桃子達と合流してからこの【死亡者・おくりびと表示端末】を見るのは初めてであり、当然の質問を投げかけたと言える。 桃子は澪の質問に答えながら、その端末の説明書をペラっと澪に手渡した。 「おくりびと?」 「そこにも書いてありますけど、死んだ人の最も近くにいた人のことらしいっすよ」 「そんな物を持っていたのか…」 澪は受け取った説明書にさっと目を通すと、桃子の持つ端末を覗き込もうとする。 「あ、ちょっと待つっす」 しかし澪の動きを見て、桃子は端末の画面を自分の胸に押し当て、隠した。 「え? 見たら駄目なのか?」 「いいえ、見るのは良いっす。沢山の人が見た方が、表示される人の顔と名前は一致するでしょうから。ただ……」 「ただ?」 澪は、一度言葉を切って視線をそらす桃子に、相槌を打って先を促す。 「ただ、これを見るのって、少し覚悟が必要っすよ。死んだ知り合いの写真を見るのって、結構キツイっす。 私も、憂さんも、これを見てちょっと辛い思いをしましたから」 真剣な表情でそう言う桃子の実体験から来ている言葉は、澪にも十分な真実味を感じさせた。 「そういうことか」 桃子の言葉を受け、澪は軽く俯いてギュッと拳を握りながら軽音部の仲間達の事を思い出した。 確かに、澪以外全員が死んでしまった軽音部の仲間達の顔写真を見て、澪が何も思わないはずが無い。 それは澪自身にも容易に想像ができる。 だが、しかし。 「大丈夫、私は決めたんだ。もう逃げないって。全力で戦うって!」 気の弱い澪にそんな決心ができたのは、明智光秀に飲まされた麻薬、ブラッドチップの後押しがあったおかげだったのかもしれない。 しかし、ブラッドチップを呑まされてからそろそろ4時間が経ち、薬の効果が消えかけている今でも、その決意は澪の中に残っていた。 そんな決意を桃子に伝えた澪は、語気を和らげ、続けて言った。 「優しいね、東横さんは」 「え?」 「私の事を、心配して言ってくれたんだろう?」 「それは……」 桃子はそこで、自分の胸に端末の画面を押し当ることをやめ、澪にも画面が見えるようにした。 澪の言葉に対して肯定も否定もできず、返答に困っての行動だ。 そして、見えるようになったその画面を見て澪は、はっと息を飲み込んだ。 「まあ、こういうことなんすけど」 その画面には、よく似た少女の顔写真が二つ並んでいた。 片方が平沢唯、もう片方が平沢憂だ。 (くっ……これは、確かに) こうして端末に表示されてしまうと、死んでしまったんだという実感がどうしても高まる。 それに、死んでしまった友達の元気だった頃の顔写真は、その友達との思い出も一緒に連れて来る。 一緒に部室で過ごした時間。 文化祭や新入生歓迎会のライブ。 クリスマスや正月も、高校生になってからは軽音部の皆と一緒に過ごした。 次々と思い出が蘇る中、澪はこみ上げてくる感情を必死に抑えながら、飲み込んだ息を苦労して吐き出す。 そこから深呼吸を二、三回。 「大丈夫。大丈夫だ」 どうにか自分の感情を抑え込み、澪がそう口にしたところで、格納庫の出入り口の方から二人とは別の声がした。 「澪さん、桃子ちゃん」 その声の主は、身体についた血を洗い落とし、着替えを済ませた平沢憂だった。 「憂さん、駄目っすよ。あんまり大きな声で私を呼んじゃ。一応、私はいない事になってるんすから」 桃子はそう言いながら出入り口の方へ歩いて行き、それとなく憂が唯の死体の方へ近付かないように誘導する。 「あ、そうか」 「それにしても、その服。相変わらずのゴスロリさんっすね」 「朝、ルルーシュさんからもらった服に、近いのが良いかなって思って」 桃子とそんなやり取りをし始めた憂を見て、澪もそちらへ歩み寄りながらポツリと呟いた。 「……唯」 髪を下ろした憂は、普段から唯と一緒にいる軽音部のメンバーにも見分けがつかないほど、唯に似ている。 唯と先に出会っていたために、政庁では澪にも唯と憂を見分ける事が出来ていたが、 その時点で既に憂は髪を下ろしており、もしも出会う順番が違っていたら、澪に見分ることができたか分からない。 それに加えて憂が着てきた服では、澪からはどうしても憂が唯に見えてしまう。 「……憂ちゃん。……その服って」 「はい。澪さんから渡された衣装セットの中に入っていました」 「っ…………」 憂が選んだその服は澪や唯が一年生の時、文化祭のライブで唯が着用したものだ。 憂本人に他意は無かったのだろうが、そのチョイスは確実に澪の心を抉った。 こんな殺し合いの舞台の中で奇跡的に生き残り、再会を果たすことが出来た澪と唯だったが、結局、大した話も出来ずに死に別れた。 そして今、姿のそっくりな唯の妹が、かつて唯がしていたのと同じ格好をして隣にいる。 こんな状況は……。 「なんで……」 澪は「なんでその服なんだ?」というセリフを飲みこみ、一瞬でもこんな状況は耐えられないと思った自分を、心の中で叱咤した。 耐えられないなんて事は無い。むしろ耐えねばならない。 もう逃げないと。全力で戦うと誓ったのだから。 なんでその服を選んだかなんて、さっき憂が桃子に言っていた理由が全てだろう。 ルルーシュに少しでも気に入られようとした、いじらしい努力じゃないか。 「?」 憂は、しばらく黙りこむ形となっていた澪の前でキョトンとしていた。 「えっと……憂ちゃん、何か用があったんじゃないのか?」 「あ、そうなんです」 無理矢理取り繕って澪が言ったその言葉は、どうやら当たりだったらしい。 「あのー、澪さん。替えの下着って持っていませんか?」 「へっ?」 「さっき脱いでみたら、下着も汚れていて……今、私、穿いていないんです」 自分のスカートを押さえながら、憂はそんな事を言った。 「あぁ、どうだろう?」 一瞬、呆気にとられた澪だったがすぐに気を取り直し、自分のデイパックを開く。 「実はこのデイパックって、私が気絶している時に他の人が色々入れたみたいでさ、私も中身を全部は把握していないんだ。 ちょっと待って、今見てみるから」 「はい。えーっと、桃子ちゃんは着替えとか持ってなかったよね?」 澪が自分のデイパックの中身を確認する間にと、憂は桃子にも話を振ってみた。 「え、ええ、まあ。前に憂さんとルルさんと三人で持ち物を見せ合った時から、私の荷物はあんまり変わってないっすよ」 桃子はこの時、話の内容がイマイチ掴めていなかったのだが、とりあえず事実だけを述べた。 「そうだよね。はあ、やっぱり落ち着かないな」 「…………」 憂が残念そうにため息をつき、しかし桃子は何と返したらいいか分からず、微妙な沈黙が漂い出した次の瞬間。 澪が「あっ」と声を上げた。 その声で桃子と憂が澪に視線を向けると、既に澪の周りにはデイパックから出てきた絵本やモンキーレンチの他、 仮面やジャンケンの絵柄が入ったカードなどが散乱しており、澪自身は何か小さな布を左手に掴んでいた。 「これ……多分、未使用だと思うけど」 澪は、その布を両手で持ちかえて広げてみる。 それは、紛れも無くパンツだった。 汚れも何も無い、真っ白な。 「憂ちゃん。これで、良いかな?」 「あ、はい」 憂は澪の手から純白のパンツを受け取るとさっそく靴を脱ぎ、それを穿いてみた。 「うん、サイズも大丈夫そうです。貰っちゃっても?」 「ああ。どうぞ」 「はい、ありがとうございます。助かりました」 少し恥ずかしそうにしながらも、素直にお礼を言う憂に頷き返しながら、しかし澪は怪訝に思った。 (なんで、パンツなんか入っていたんだ?) 結果的には良かったものの、澪にはそんなものをデイパックに入れた覚えが無かった。 なら、澪が気絶している間に伊達政宗が入れたのだろう。 政宗は「役に立ちそうなもんは全部入れた」と言っていたが、これも役に立つと思ったのだろうか? (伊達政宗、か) 澪には絶対に敵うはずが無いと思ったあの明智光秀と互角に渡り合った隻眼の男、伊達政宗。 彼のような強い人に守ってもらえたら、どんなに心強かっただろうと思ったりもした。 しかし、あんなに強かった政宗も、先の放送で死者として名前が呼ばれた。 この島で生き残ることはそんなにも難しいのか……。 「澪さん? どうしたんですか?」 再び黙り込んでしまった澪に、憂が声をかける。 「いや、何でもない。そうだ、それより東横さんにおくりびとが見られる端末を見せてもらってたんだけど……」 「あ、そうだったんですか……桃子ちゃん?」 桃子は先ほどのパンツのやり取りが始まったあたりから、なぜか戸惑ったような表情で黙り込んでいた。 「どうかしたの?」 「いや、えーっと……」 「ん?」 「それじゃあ、憂さんも一緒に見るっすか?」 「あ、うん」 こうして、三人は【死亡者・おくりびと表示端末】の表示を確認していった。 死者/おくりびと 平沢唯/平沢憂 海原光貴(?)/(茶髪の少年) 明智光秀/伊達正宗 トレーズ・クシュリナーダ/ 明智光秀 伊藤開司/ユーフェミア・リ・ブリタニア アーチャー(?)/(ツンツン頭の少年) 神原駿河(?)/織田信長(?) 張五飛/バーサーカー ヴァン/バーサーカー 伊達政宗/福路美穂子 バーサーカー/両儀式 今回新しく表示された死者と送り人は、この三人で確認するとかなりの人物の顔と名前が一致した。 死者の方では、放送で呼ばれた名前の中で澪達の知らない名前が、海原光貴、アーチャー、神原駿河の三人。 このうち海原光貴と神原駿河という名前を、それぞれ日本人の少年と日本人の少女の写真に当てはめれば、 残った褐色の肌の男性の写真がアーチャーだと分かる。 100%ではないが、まず間違いないだろう。 おくりびとの側で澪ら三人が見ても分からない人物は、海原光貴のおくりびとに表示されている少年と、 アーチャーのおくりびとに表示されている少年だった。 伊藤開司のおくりびとは、ルルーシュから聞いていたユーフェミアの特徴と一致。 神原駿河のおくりびとは、炎のような意匠の少し変わった兜をかぶった、いかにも戦国武将といった雰囲気の男だ。 もう戦国武将は他に残っていないし、この男が織田信長なのだろう。 「……私達に分かるのはこんなとこっすね。後でルルさんにも見せてみるっす」 「うん、そうだね」 ひととおり【死亡者・おくりびと表示端末】の確認を終えると、桃子と憂はそう言って頷き合った。 「澪さん、大丈夫ですか?」 「…………」 澪はというと、一人格納庫の壁に寄り掛かって、目を押さえながら上を向き、涙を堪えていた。 今回追加分のおくりびとを確認した後、澪が加わったという事で、以前の時間帯の死者とおくりびとを遡って確認したのだが、 その中で中野梓、田井中律、琴吹紬と、次々に表示されていった桜高軽音部メンバーの顔写真を見て、 とうとう澪はこみ上げてくる感情が抑え切れなくなり、格納庫の隅に座り込んでしまったのだ。 「えっと、失礼します」 そんな澪に一声かけると、憂は澪に抱きついた。 「え、あ、憂ちゃん?」 憂の姉である唯にはやたらと人に抱きつくという癖があり、澪も唯に抱きつかれた回数は一度や二度では済まない。 しかし澪は、憂に抱きつかれた事など今まで無かった。 だが、この憂も小さい頃は、姉の唯と同じようにやたらと人に抱きつく子だった。 性格的に大きくなってからは、やっていなかっただけで、平沢姉妹の趣向はとてもよく似ているのだ。 「桃子ちゃんはこうしたら落ち着いてくれたので、澪さんもどうかなって思って」 「ちょっ、憂さん。恥ずかしいっすよ」 「あは、ごめんね」 憂の言葉に、桃子が後ろから軽く抗議の声を上げたが、憂は軽く振り返ると笑顔で流した。 (憂ちゃん……やっぱり唯みたいだな) 一方、澪はそんな事を思っていた。 唯と憂は体格も近くて、抱きつかれたときの感じもよく似ている。 とても温かくて、何だか安心する。 「…………ふぅ。ありがとう、憂ちゃん」 澪はしばらくそのぬくもりを堪能した後、ゆっくりと立ち上がった。 必死で堪えても目からあふれ出していた涙は、いつの間にか収まっていた。 立ち上がるとき、憂の身体が妙に軽く感じたが、その事を言及する余裕は、この時の澪には無かった。 「どういたしまして」 そう言って笑う憂の笑顔がやっぱり唯にそっくりで、澪はまた辛くなりそうな気がして、憂から目をそらした。 「ん……あ……それは!」 澪が目をそらした先には桃子が立っていた。 そして桃子は、澪がとても見慣れた物をその手に持っている。 「これ、私の支給品にあったんすけど、あなたのなんすよね? 今まで渡しそびれていましたけど、良い機会なんで渡しておくっす」 そう言って桃子が澪にさし出したのは、澪愛用のレフティ(左利き用)ベースだった。 桃子も桃子なりに、澪を元気付けようと考えたのだ。 「あ、ああ」 澪は桃子からベースを受け取ると、軽く弦を鳴らしてみた。 アンプに繋がっていないエレキベースから出る音は大した音ではなかったが、この音も澪にとっては聞き慣れた音だ。 「うん、私の、だ」 そう言いながら、澪はしっかりとベースを持ち直し、右手で弦を押さえ、左手の指で弦を弾く (そうだ、戦うんだ。私は……) ベースを弾きながら、澪は自分の決意を改めて思い返す。 (律が居て、ムギが居て、こっちに梓、それでそっちに唯が居て……そんな軽音部を取り戻す! そのために戦うんだ! どうやったら取り戻せるか、まだ分からないけど、でも魔法があるくらいなんだ。きっと方法はあるはず) ふっと澪が気付いて視線を上げると、唯にそっくりな憂が何かを期待するような眼差しで澪の事を見つめていた。 (そういえば、懐かしいな。) その視線を受け、澪は唯に初めて演奏を聞かせた時のことを思い出した。 一年の春。部員が足りず、廃部になる寸前の軽音部に見学に来た唯に演奏を聞かせた時のことだ。 (あの時、唯にはあんまりうまくないって言われたんだったな。今はそんな事無いぞ。私もあれから上達したし) そんな事を考えながら、澪はその時演奏した曲のベースパートを弾き始める。 (それに、あのときはヴォーカルも決まっていなかったけど、今は私だって歌えるし、な) あの頃、澪は人前で歌ったことなど無かったが、今は違う。 あれから文化祭や新歓ライブを経て、澪は歌に関してもそれなりに自信がついた。 「いまー わたしのー ねがいごとがー」 そして澪は、当時ヴォーカル不在で演奏のみだったその曲の歌を歌い始める。 「かなうならばー つばさが ほしい」 日本の教育を受けた学生ならば、ほとんど誰もが知っているであろう、あの曲を。 「「このー せなかにー とり のようにー」」 そんな曲だから、途中からでも簡単に入ることが出来る。 今回は、憂が澪に合わせて一緒に歌いだした。 「しろいつばさー つけてください」 「しろいつばさー つけてください」 すかさず澪がソプラノパートからアルトパートに移り、その歌は即席の合唱となる。 「この おおぞらにー つばさをひろげー とんでゆきたいよー」 「この おおぞらにー つばさをひろげー とんでゆきたいよー」 元々合唱のしやすいこの曲は、即席でも十分綺麗に聞こえた。 「かなしみのないー じゆうなそらへー つばさ はためかせ ゆきたい」 「かなしみのないー じゆうなそらへー つばさ はためかせ ゆきたい」 こうして二人がワンコーラス歌いあげ一息つくと、桃子がパチパチパチと控えめな拍手を鳴らした。 「歌、上手っすね」 「私は、憂ちゃんが一緒に歌ってくれた事に少し驚いたけどな」 「えへへ、実は私、バンドが……」 そのとき、憂のお腹がぐぅーっと鳴った。 「あぅぅ……おなか空きましたね」 「そう言えば、朝食べたきりだったっすね」 「それなら、私の荷物にお寿司があったな。食べる?」 支給品の中にある保存食よりは、そちらの方がマシだろう。 澪にとっては、その寿司にも嫌な思い出があるのだが、食べ物に罪は無いし、何より澪自身も空腹だった。 「はい、いただきます」 「私もいいっすか?」 「ああ。それじゃあ、みんなで食べるか」 そうして三人は、澪の持っていた寿司を食べ始めた。 その間も三人は、食べながら色々な話をした。 女が三人寄れば姦しいというが、それは普段、口数のそれほど多くないこの三人にも当てはまるらしい。 話の内容は。 「白井黒子か戦場ヶ原ひたぎって人に会ったことあるっすか? 浅上藤乃でもいいっすけど」 「うん、白井さんにはこの島に来て最初に会った」 「どんな人でしたか?」 「私よりもしっかりした中学生だったよ」 「見た目は?」 「小柄で、フワッとした茶髪をこう、頭の両側でまとめていたな」 「茶髪っすか」 「ああ。…白井さんがどうかしたのか?」 「いえ、おくりびとに移っていた人の中で、名前の分からない女子が誰なのかっていう話っす」 「そういうことか」 「それなら、白井黒子はシロっすね」 とか。 「私、バンドを組んでみたいんですけど、何から始めたらいいでしょうか?」 「そうだな、やっぱりまずは楽器をそろえないと」 「もしかしたら、ショッピングセンターには楽器を売っているお店があるかも知れないっすね」 「じゃあ、ルルーシュさんにショッピングセンターにも寄ってくれるようにお願いしてみようかな」 とか。 「澪さんのデイパックの中って、色々な物が入っていますよね」 「ルルさんのと、良い勝負っすね」 「これは……シュガースティックですか?」 「いや、どうだろう?」 「この笛は何すか?」 「うーん、わからない」 「あとで、ルルーシュさんに見てもらいましょう」 「あの三つ編みさんもただ者じゃないっぽいし、私達が見ても分からない物は他の人にも見てもらった方が良いっすよ」 「……なあ、二人はルルーシュって人、信用しているのか?」 「はい。とっても頼りになるんですよ」 「まあ、善人じゃないと思いますけど、今、私達が生きていられるのは、あの人のおかげっすよ。それは認めるっす」 など、今後の行動に多少なりとも関わる話題から。 「流石に少し鮮度が落ちているな。この寿司」 「でも、食べられないほどじゃないっすよね」 「今日中には全部食べないと、駄目になっちゃいそうですね」 というような雑談まで、様々だった。 そして寿司をそれぞれ一人前分食べ終え、どこかのんびりとした空気が流れる中、空腹が満たされた憂がハッと立ち上がった。 「そういえば、ルルーシュさん達もおなか空いているんじゃ?」 「じゃあ、まだお寿司も残っているし、差し入れに行くか」 「あ、私は残るっすよ。私は居ないことになっていますから」 こうして、憂と澪は他の人達へ食べ物を差し入れるために、格納庫を後にした。 □ 揚陸艇の船室で眠っていた両儀式は、よほど消耗していたのだろう、放送が流れても目を覚まさなかった。 毛布に包まり、口を空けて泥のように眠り続けている。 その傍らでは、デュオ・マクスウェルが腕組みをしながらウームと唸っていた。 「ゼクスは生き残ったか。なら、象の像に現れるかね。しかし……」 式の状態を見るに、あと一時間やそこらでは回復しそうにない。 それに、ルルーシュ・ランペルージと平沢憂に対する疑念は、デュオの中に未だ残ったままだった。 前者はあまりにも手際が良すぎることと、どこか計算尽くのような態度。 後者は、阿良々木暦が襲われたと言っていたことが、疑念の主な原因だ。 秋山澪は置いておくとしても、今のまま他の参加者達と合流する事が、果たして得策かどうか。 「それに、こいつの解析もあるしな」 そうつぶやいて、デュオは二つの首輪を見つめた。 片方は、デュオと同じガンダムパイロットの一人、張五飛が付けていた首輪。 もう片方はルルーシュから渡された、荒耶宗蓮が付けていたというダミーの首輪だ。 主催者側の人間であったという荒耶の首輪に、他の首輪と同じような爆破機構が付いているとは思えないが、 少なくとも、見た目は同じに見えた。 そもそも、この首輪は参加者全員に装着させなければならない物だし、数が必要になる物だ。 となると、バーサーカーの様な特殊なサイズの物以外、普通の人間サイズの物はおそらく量産されたのだろう。 荒耶の首輪は、そこから主催者側の人間に不要な、爆破機構等をオミットした物であると考えられる。 量産品に手を加えた方が、一から特注品を作るよりも効率的だからだ。 だとすれば、この首輪を上手く分解なり破壊なりすることが出来れば、他の首輪の構造も判明するはず。 しかし、今はロクな工具も無く、解体することもままならない。 (首輪の解析を優先したいってのも、あるにはあるんだよな) 首輪を外さなければ、ゲームの主催者達に命を握られたままという状況は変わらない。 他の参加者と合流する時には、殺し合いに乗っていないかどうかなど、 その参加者へ細心の注意を向けることになる分、首輪の解析などは滞ってしまうだろう。 もちろん、合流する参加者もデュオ達と志を同じくするものであるのなら、後々の事を考えると合流するに越した事は無いのだが。 (ま、他の奴が何か知っているかもしれないし、合流が先でも良いけどな) そこまで考えると、デュオはすっくと立ち上がり。 「あー、らしくねえな!」 と、地声からして大きな声を張り上げたが、それでも式は眠り続けていた。 デュオはそんな式に背を向けると、船室の扉を開け。 「やっぱ、こんな風に考え込むのはガラじゃねえ。ちょっと、ルルーシュ達と話して来るわ」 と、聞いていないだろうが式に言うと、デュオは式の寝ている船室を後にした。 首輪に関して今できる事は限られているが、ルルーシュや憂に対する疑念は、彼らと直接話すことで解決できるかもしれないのだ。 それに、デュオは独りで黙って考えているよりも、他人と会話する方が好きだった。 こうしてデュオは、この揚陸艇の操舵室へと向かうと、努めて明るく声をかけながら扉を開いた。 時系列順で読む Back 贖罪は優しき少女の為に Next 想い の 翼(後編) 投下順で読む Back 贖罪は優しき少女の為に Next 想い の 翼(後編) 221 GEASS;HEAD NOAH(後章) デュオ・マックスウェル 232 想い の 翼(後編) 221 GEASS;HEAD NOAH(後章) 両儀式 232 想い の 翼(後編) 221 GEASS;HEAD NOAH(後章) 平沢憂 232 想い の 翼(後編) 221 GEASS;HEAD NOAH(後章) ルルーシュ・ランペルージ 232 想い の 翼(後編) 221 GEASS;HEAD NOAH(後章) 東横桃子 232 想い の 翼(後編) 221 GEASS;HEAD NOAH(後章) 秋山澪 232 想い の 翼(後編)
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するがだてシャルトリュー ◆zg9MHZIP2Q 猿と竜。 神原駿河(かんばる・するが)と伊達政宗(だて・まさむね)。 猿の悪魔『レイニー・デヴィル』の片腕を持つ女と、竜の二つ名を持つ片目の男。 出会った場所は大量の本の山。神原駿河が好む属性が余すことなく詰まった欲望の塊。 政宗が無一文と見なしたゴミを、彼女は一冊残らず己のディバッグに挿入している。 「しまった。ここに隠れていたのか。 “奥州フットー!新ジャンル『勃て政宗』第三巻”。自宅に取り残されたと思っていたが。 こんな事なら、まとめておいた他の巻をしまわずに置いておけば良かった――ああ、すまなかったな。 この“奥州フットー!新ジャンル『勃て政宗』”は政宗受けモノとしては異例の作品なのだが……」 誰も聞いていないのに、勝手に語り始めたぞ。 神原一押しの同人誌。苦しいネーミングセンス。もしかして新ジャンルと独眼竜が掛け言葉になっているのか? 彼女には悪いが、こういう説明描写は大抵、大きく時間を浪費する割りに内容は無いようなので。 「ペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラペラ」 丁重にカットさせていただこう。 「……今や商業路線はおろかネットでもGET不可能の幻の品だ。全国の武将相手に日夜雄弁を振るう姿がそそるぞ」 草むらに隠れていた最後の一冊をしまいながら、神原は口元からダダ漏れていたよだれを拭く。 まるで赤子を孕んだ妊婦のようにディバッグをさする彼女は充実感でいっぱいだ。 「神原駿河、アンタただの雑魚じゃないな」 一方の政宗の表情は真剣だった。 さっきまで神原と一緒に本の整理をしていたというのに。 いつの間にか手に入れていた木製のスティックを、容赦なく神原に突きつけている。 仕方の無いことだろう。 神原の素行は、生まれたての赤ん坊にポルノビデオを見せるくらい、突き抜けているからだ。 政宗にとっては、怪しげな暗号を羅列されているようにしか思えない。 「そうか。わかった。そこまで聞けば、もう十分だ。つまり、私は脱げばいいんだな?」 「独眼竜は伊達じゃねぇ。アンタがどう取り繕ろうが、この眼は誤魔化されねぇぜ」 「うん、そうだ……ああ、ちょっと待ってくれるかな、筆頭伊達政宗殿。すぐに裸になるから。 初対面とはいえ、史実に残る名将軍と言葉を交わす。ならば裸になるのが礼儀というものだ」 ところで、この『独眼竜は伊達じゃない』という言葉。 僕にはどこか矛盾しているような気がする。 純粋に伊達政宗は伊達ではない、という意味なのだろうが、傍目にはギャグにしか聞こえない。 「神原駿河、俺の命令を無視して勝手に進めんな。人の話を聞け」 「おお。やはり筆頭はやはりタチだった。私の目に狂いはなかったな。 “苗字が『いたち』と読めるから伊達政宗はタチ”という説が本人の口から証明されたのは、非常にうれしく思うぞ。 ちなみに私は雑魚ではないよ。 むしろネコだ。シャルトリュー種顔負けの人懐こさ、辛抱強さを提供しよう。 ああ。何という事だ。奇しくもこれでお互いの需要が満たされてしまったな――だが、安心してほしい。 そうして欲しいのは山々だが、本音を言えば、操を捧げる相手はもう決めているんだ」 政宗はスティックを強く握り締め、みしみしと音を立てた。 「……差し支えなければ、教えてほしいな。これは尋問なのか」 どうやらそれが功を奏したらしい。 神原は命の危険を感じたらしく、自分で話題を変えた。 政宗がもっと穏やかな人間だったら、あと1時間は性交渉時における攻め手(タチ)と受け手(ネコ)の議論を聞かされていただろう。 「さっきから聞いてりゃ、“攻め”だの“受け”だのfuggyなことをしゃべくりやがって。 新米KUNOICHIか? 俺のよく知った野郎共の話ばかりしやがる。 ……兵法を熱弁するのは勝手だが、うちの軍の情報も把握してやがんのか」 「なるほど。尋問なんだな。あなたのような人間にされるなら“駿河問い”が文字通りうってつけだぞ。 もちろん心得はあるのだろう? 下手人を縄で縛って吊るしてしまう拷問だ。 後で開放するのを約束してくれるなら、喜んで受けよう。 放置プレイを捨てるのは惜しいが、あいにく状況が状況だし、私もまだ死にたくない」 「O.K.Garl,洗いざらい全部しゃべっちまうのが利口だぜ? 」 「筆頭の亀頭をしゃぶる事で許されるのなら、私は一向に構わないが、まずは話を聞いて欲しい。 誤解を解くのはそれからでも遅くはないだろう。さあ、私に支給されたこの縄で好きにしてくれ」 数分後、神原駿河の手は後ろに回され、両手首を縛られた。 「あ、うう、あ、太くて、硬い……んっ! 筆頭、もっと深く、もっとキツキツにして……」 もちろんこれは縄の話である。 神原はもっと情熱的な束縛を期待してたのだが、喘ぎ声がうるさかったらしく、政宗は簡易で済ませた。 史実では伊達政宗は沢山の妻と子供を持つハッスルマンだったらしいが、ここにいる彼は常識人のようだ。 「単刀直入に言うと、私は武将の類ではないぞ」 神原は政宗に二度目自己紹介をした。それもより正確に克明に。 自分はレズで、BL好きな腐女子で、ネコ(性行為で受動的な側)で、受けで、ロリコンで、マゾで、露出狂で、欲求不満だと。 言い換えれば、自分の性癖を暴露したといったほうが正しいのだろう。 腕の包帯にあるレイニーデビルについては話さなかった。 本当に話さなければならない事実が逆になっている気がする。 「okey-dokey(はいはい、わかったよ)……BEET YELLってのはつまり男色のことか。不勉強だった」 「なるほど。私はこれまでBLは『ボーイズ・ラブ』の略と信じていたのだが、『ビート・エール』の略という可能性もあるのだな」 恐れていたことが起こってしまった。 もともと外国の慣習に興味のあった政宗は、持ち前の学習能力を生かしてBLを知った。 男色にさほど抵抗のない戦国時代の人間に、神原はこの上ない余計な知識を植えつけてしまった。 今から図書館に行けば、属性について論争を巻き起こす武将たちが絵巻で見られるだろう。 異文化交流というよりタイムパラドックス、明治政府もビックリだ。 「そしてアンタは、お国の動乱と噂話と妄想が大好きな庶民で、欲求不満の変態。OK? 」 「話が早くて助かる。何せ近日中に妻妾同衾する計画を目論んでいるからな。欲求不満にもなるさ」 「Good……ほめとくよ」 武家の慣習に疎そうな発言をふまえたのか、政宗には神原が異国あがりの町娘に見えるらしい。 変態という属性をしっかり抑えているあたり、抜かりが無い。 確かに神原の格好を大名が見れば、バテレンの正装……ってそんなわけあるか。 政宗も人のことを言えた義理ではないと思う。鏡を見ろ鏡を。 「筆頭はこれからどうするんだ? 」 「目指すは天下無双だ。こんなところで足止めくらってる暇はねぇ。敵の根城を叩き潰し、大将を討ち取るまでよ」 「流石は奥州の独眼竜。攻めて攻めて相手をヒィヒィ言わせるところは、相変わらずだな」 ちなみに神原も政宗の素性を詳しく問おうとはしなかった。 政宗が話すことは、ところどころ間違ってはいるものの、歴史上で伊達政宗が活躍したことと一致していた。 神原は政宗を“怪異”、すなわち戦国武将の幽霊のようなものと認識していた。 政宗が嘘を言っているようには見えなかったし、帝愛グループが話していた“魔法”のせいと考えれば合点がいくからだ。 「奴さんは城にコモってりゃ勝てるとでも思ってるんだろうが、あいにく俺はknockもせずに入る性分でね」 「ほう。奇遇だな。私もだ。ホモるだけが全てではない。行為前の絶妙な距離感はワビサビに通じる芸術品だ」 それから彼らはこの島の詳しい地理を把握するために、徒歩以外の移動手段を確保することになった。 政宗は野生の馬を探そうとしたが、神原の提案で、西にある施設に向かうという結論に落ち着いた。 「悪かったな。これでアンタは自由の身だ」 「あっ、そんな殺生な……もっとお戯れを」 「Ha,ha!やなこった」 「さあ、早く、私のことを『この卑しいペットが!』と呼んでくれぇっ」 2人はいたって真面目だが、縄をほどく人間とほどかれる人間の会話とは到底思えない。 というか会話が成立していない。 政宗は神原のイカレっぷりに根負けしたのか、必要以上に彼女を疑うことをやめたようだ。 神原は神原で、とりあえずホイホイとついて行くことにしたらしい。 「本音を言えば、縛ったまま私をおんぶして欲しかったな。焦らしプレイも嫌いではないが別腹だ。 縛られたまま連れ去られる……なんて頭がフットーしそうなシチュエーションなんだ」 「そのsituationをここでやれってか? no joke(冗談じゃねぇぜ)。 将来天下無双になる男を使い走りにするたぁ上等じゃねぇか」 「言われなくともわかっているさ。冗談だ。というより、私が本当にフットーするのは戦場ヶ原先輩と繋がったときだけだ」 神原はハッと顔を強張らせた。 自分の思い人の名前を、思わず出てしまったからだ。 「戦場の焼け野原と繋がる? 命粗末にしちゃってCoolじゃないねぇ」 「そ、そうだった。筆頭はディルドーを知らないのだったな」 「DEAL道? 異国の信仰宗教か? 」 彼女はまだ自分の友人たちのことを政宗に話していない。 戦場ヶ原のことも、千石のことも、阿良々木暦のことも。 「すまない」 神原は恐れているのだろう。 仲間のことを話せば、政宗が彼らを助けるかもしれない。 それは政宗に余計なカリを作ってしまう。 「……今の話は忘れてくれ」 神原の左手には、包帯で隠されているが、猿の手になっている。 人を惑わす妖怪のようなもの――怪異『雨降りの悪魔』(レイニー・デヴィル)の手だ。 『雨降りの悪魔』は、人の魂と引き換えに三つの願いを叶える。 願いを全て叶え終えた人間は、生命と肉体を奪われてしまうのだ。 「Take it easy. (気楽になれよ) どうした? 」 神原はかつて二回、願い事をしている。 色々あって現在は、『雨降りの悪魔』の効果も沈静化しているが、神原には相当の負い目になった。 誰かにカリを作ることが、少なからずプレッシャーとなっているのだろうか? ◇ 「見てくれ、あれが鉄道だ」 トンネルの先まで伸びた線路を指差して、神原は政宗の現代文明の力を紹介した。 事前に地図を調べていた彼女は、交通手段の仲介が、政宗の信頼を得る上で一番てっとり早いと考えたようだ。 「 どんな馬屋かと思えば、人っ子ひとりいやしねぇ」 「言われなくともわかっている。馬にまたがって早くどこかにイきたい気持ちは察するが、そうガッカリするな。 というより、筆頭はそれ程までに跨るのが好きなんだな。安心してくれ。しばらく待っていれば、ビッグな馬がやってくるぞ」 駅を目標に、神原たちはBダッシュに匹敵するスピードで山道を駆け抜ける。 「ピィィィィィーーーーーッ!! 」 けたたましく響く高周波。 政宗の指笛だった。 「Why? 例の馬はちゃんと調教されてんのか? 主人の呼び鈴に応えられねぇたぁ……」 「はっはっは。彼はじゃじゃ馬なんだ。笛を鳴らした所で――」 ――ボッ 政宗が呼んでからその間わずか1秒足らず。 気圧差による対流の開放に、空気が叫ぶ。 信じられないことだが、じゃじゃ馬は絶妙のタイミングでトンネルを飛び出してきたのだ。 「Hey! こいつぁまたglobalなじゃじゃ馬じゃねぇか! 」 「驚いたな! なんというミラクル☆トレインなんだ。人工知能でも入ってるんじゃないか? 名前を着けるなら、そうだな……『中野陸』! おそらく彼が私たちを呼んだのだ」 電車に中の人などいない! 神原の妄想がまた始まった。 戦場ヶ原ひたぎの声を出す列車が生まれたら、きっと神原は毎日乗車するだろう。 そして車内の鉄棒に体をこすり付けて、桃色の吐息と声を出しながら、色々なものを漏らしていたに違いない。 ――プアァァン 「Ok,OK……もうすぐご主人様が鐙を踏んでやっからな」 「む。まずいぞ筆頭! 賢者タイムを考慮しても、我々が乗り込むには時間が足りない」 そのスピードは馬といい勝負かもしれないが、スタミナは馬の何十頭分あるのだろう。 勇猛果敢に線路を走っていた列車は駅に到着した。 しかし駅のホームから神原たちがいる場所までの距離は、乗車するにはやや遠い。 おそらく、神原がホームに着くころに列車はホームを去ってしまうだろう。 「乗り込む? Holy shit!(まさか) 」 だが、それは―― 「馬は跨るもんだろ。 戦国乱世を生きる武将に、従えられない馬はねぇ! 俺の知ってる奴らなら、これぐらい朝飯前だぜ。You,See? 」 走っていたのが神原だけの時の話だ。 ◇ 「奥州筆頭・伊達政宗、武装騎馬、got it!(獲ったり!) Ya-ha-!」 列車の上に胡坐をかいて座る政宗は、高らかに笑う。 そして、ふと己の腰に巻かれていた縄に気がついた。 「いや。お見事。お見事。私にはやはり先見の明があるな。 いずれ来るであろうフットーに備えて、筆頭と私を繋げておいたのだ」 列車に乗る際にぶつけたらしく、神原は頭をさすっていた。 いつの間にか筆頭をロープで繋げていたらしい。 相変わらず無茶なことをする。 でも。その図々しさと持ち上げっぷりとエロさが神原駿河の魅力なのだ。 「Shit!……ま、いいや。 神原駿河、もうアンタの好きにしな」 「いや。最高にスリルを味わえたぞ。肉体から魂が引き剥がされるようなスピード。 ほとんど宙に浮きっぱなしで、時折着地するのがやっとだったよ」 今はまだ政宗に隠し事をしているが、それは彼を信頼したいという裏返しでもある。 しばらくは血迷った真似に走る事はないだろう。 たまった感情をいつか爆発させなければいいのだが。 「ところで筆頭、盗撮プレイはお好みか? 実のところ、私はさっきから濡れっぱなしなんだ」 「Ha!今度はどんなjokeだい? 」 ……人が心配してやってるのに。 やはりさっさと本編に戻るべきだった。 ごらんのありさまだよ! 【B-4/列車の上/一日目/深夜】 【伊達政宗@戦国BASARA】 [状態]:健康 [服装]:眼帯、鎧 [装備]:田井中律のドラムスティク×2@けいおん! [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~1(未確認) [思考] 基本:自らの信念の元に行動する。 1:主催を潰す。邪魔する者を殺すことに抵抗はない。 2:信長、光秀の打倒。 3:神原は変態。馬の件は嘘じゃなかったし、とりあえず泳がせとこう。 [備考] ※参戦時期は信長の危険性を認知し、幸村、忠勝とも面識のある時点からです。 ※神原を完全に信用しているのかは不明。城下町に住む庶民の変態と考えています。 ※列車を馬と勘違いしています。 【神原駿河@化物語】 [状態]:健康 腕に縄縛紋あり テンション↑ [服装]:制服 [装備]:縄@現実 [道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~2(未確認)、神原駿河のBL本セット [思考] 基本:殺し合いをしたくはない。 1:出来れば戦場ヶ原ひたぎ、阿良々木暦と合流したい。 2:政宗と行動を共にする。 [備考] ※アニメ最終回(12話)より後からの参戦です ※政宗には戦場ヶ原たちの情報、怪異の情報を話していません。 ※政宗を戦国武将の怪異のようなもの、と考えています。 ※彼らが乗った列車にはルルーシュ@コードギアスが乗っています。 列車が出発した後に天井に飛び乗ったので、ルルーシュが気づいているのかわかりません。 時系列順で読む Back 理由 Next 今は亡き王国の姫君 投下順で読む Back 衣 龍門渕のロリ雀士 Next ひたぎブレイク 018 モンキー&ドラゴン 伊達政宗 076 結ンデ開イテ羅刹ト骸 018 モンキー&ドラゴン 神原駿河 076 結ンデ開イテ羅刹ト骸
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作者・◆UwuX8yY6RQ氏 私、◆UwuX8yY6RQが考えたオリキャラ達でバトルロワイアルをさせようという企画。 09/11/23本編終了。 09/11/25をもって本ロワは完全完結しました。 作品を読んで下さった皆様、感想を書いて頂いた皆様、 ありがとうございました! 俺オリロワ本編 俺オリロワ本編SS目次・時系列順 俺オリロワ本編SS目次・投下順 俺オリロワキャラ別追跡表 俺オリロワの死亡者リスト 俺オリロワの支給品一覧 俺オリロワの参加者名簿 俺オリロワのネタバレ名簿 俺オリロワのルール&マップ 俺オリロワ各種設定
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魔女は晩餐 ◆00PP7oNMRY 「首輪に、爆弾、か」 闇夜の公園に、女性の声が響く。 高く澄んだ、少女の声。 その声の持ち主は……何というか、非常に目立つ少女だった。 おそらく、道行く人の十人に十人は振り返るだろう、というほどに目立つ少女。 長い、腰まで届く薄緑、という珍しい色の髪に白い肌、薄い金の瞳、髪と同じ色の細い眉、美しく整った目鼻立ち。 恐らくはその容姿だけでも、道行く人々を振り返らせるには十分であっただろう。 ただし、まともな服装ならば、だ。 そう、彼女が非常に目立つのは、容姿とは全く異なる理由によるもの。 彼女の身を包む、あまりにも奇抜過ぎる衣装のせいだ。 最大限好意的に表現するならば、黒いベルトで飾られた、ファスナー式のつなぎ目の無い白のワンピース、とでも言おうか。 飾り気無く、二本のベルトが巻かれた広い襟。 大きく、肘まで除きこめるほど先が広げられた長い袖。 余白など無く、体のラインがそのまま現れる左あわせの裾。 ベルトは何故か腰ではなく腿の部分に巻かれ、胸の部分から足の先まで伸びるファスナーの合わせから、服と同じ色の靴が覗いていた。 それは、世間一般的には、いや、それほど一般的なものではないが、『拘束服』と呼ばれる代物。 自傷癖のある精神病患者や、重犯罪人の動きを奪う為の服装だ。 粗い布地は、頑丈に出来ていて、暴れても破けはしない。 黒いベルトは飾りではなく動きを封じる為のもので、襟や袖の広さは、それぞれ口や両手を同時に封じる為にもうけられている。 そんな、世間的には極めて異常な格好をしていながら、少女はその格好が当たり前とでも言うように、まるで気にしておらず、何事か思案に暮れていた。 やがて、ゆったりとした、ある種の精錬された動きでもって、己の右手を首元に添える。 そうして堂々とされていると、その奇抜な衣装もそれなりに似合うものであるように見えても来る。 長い袖は、どこか優雅さを感じさせる少女の動作と相まって、舞台衣装のようにも感じられるし、歩みと共に揺れる薄緑の髪が白の衣装とコントラストを描き出す。 余分な動作を出来ぬようにキツメに合わされている為か、豊かな胸や尻のラインがくっきりと現され、夜の闇と相まってか背徳的な美しさすら感じさせた。 少女は、袖の内側に手を伸ばし、そこにある何かに触ろうとする。 袖が引かれた事で現れる、きめ細かな鎖骨のラインより少し上、細い首に、光る金属の輪が巻かれていた。 丸く、すべすべとした、金属質に輝く鉄色の首輪。 表面には何の飾り気も無く、ただ文様のようにつなぎ目が存在するのみ。 少女自身には無論見ることは出来ないが、無遠慮に触る少女の繊手がその硬質な感触を告げる。 「死ぬ、か……」 拘束服に、首輪。 ある意味これほど似合う組み合わせもあるまい。 先刻告げられた内容からすれば、内部に爆弾の込められた、首輪。 どのくらいの量が込められているのか知る由も無いが、容易く首を吹き飛ばすのは少女も確認済みだ。 だが、それにかまわず、少女は首輪を無遠慮に摘み、引っ張る。 数秒間触っていたが、やがてため息一つ。 「本当に死ねるのかな、私は」 まるで、自らが死なない、と傲慢にも考えているかのような口振り。 一瞬、試してみようかという思考が浮かぶが、少女は止めておいた。 首を切られるのはあまり嬉しい経験ではない。 これでもし死ねなかったら痛み損だ。 首を斬られるのと吹き飛ばされるのとどっちが痛いか知らないが、別に経験したいとも思わない。 それに、別に今すぐ死なないといけない理由がある訳でもない。 シャルルやルルーシュ、今居る知り合い達の行いが、どんな結末を生み出すのか、見ておきたいくらいの好奇心はある。 そんな事を考え、少女は手を下ろした。 それきりもはや首輪には構わず、少女は背中に背負った、そこだけが非常に不似合いなディパックの口を開く。 「なんだ、ピザは無いか」 文句を言いながら、ディパックを漁る。 少女には特に目的も無い。 あいにくと生き返らせたい知り合いも特には居ない。 金を貰っても特に使い道も無い。 叶えたい願いは一応存在するが、叶えてもらうのは優勝しなくても可能だろう。 「そうだな、とりあえずルルーシュでも捜すか」 色々と小物を引っかき回して、ようやく参加者名簿を見つけ、目を通す。 他に興味を引くものは無い。 殆どは知らない名前、何処かの歴史で見たような名前もあった気がするが、特に関心は抱かない。 名簿の中で、見知った名前は2つ。ルルーシュ・ランペルージュと、枢木スザクの二人。 その二人の内の片方、ルルーシュ・ランペルージュという少年とは、色々と浅からぬ中でもある。 本人は知らないが、一応生まれる前から知っている相手ではあるし、ある契約を交わした相手なのだから、勝手に死なれても困る。 枢木スザクのほうは、顔見知りと言う程度の相手。 ルルーシュの父親にして倒すべき敵、世界の半分近くを支配する超帝国、神聖ブリタニア帝国皇帝シャルル・ジ・ブリタニアの騎士の一人。 ルルーシュのかつての親友にして、今は倒すべき相手の一人。 ただ、少女からすればシャルルは多少疑問を抱いてはいるが、別に敵ではない。 シャルルに言わせれば古い同志というところか。 スザクにも、恐らくシャルルから確保の命令が出ているだろうから、拘束はされるだろうが殺されはしないだろう。 だから、特に探す気も無い。出会った時にでも考えればいい。 「しかし主催者というのも気が利かないな、一番肝心のアレが入っていないとは」 小物やら何やら色々入ってはいたものの、少女のお気に入りである、『チーズ君のぬいぐるみ』が無い。 そのことに暢気に文句を言いながら夜の道を暢気に歩き出す。 とことこ、とのんびり歩いて、適当に植林された林の側を通りかかった所で、 突然、少女の姿は掻き消えた。 ◇ 少女、名をC.C. 無論本名ではない。 彼女の本名を知る人間は皆、遠い昔に居なくなっている。 彼女は、『死ねない』のだ。 『ギアス』と呼ばれる力がある。 王の力とも称されるそれは、人の精神に干渉する超常の力。 他者の記憶を書き換えたり、特定範囲の他者の精神活動を一時的に停止させる力。 どのような能力が現れるかは個人によって異なるし、素養がなければ何の能力も現れない事もある。 そしてC.C.は、そのギアスを与える力を有している。 それはC.C.の持つもう一つの、いや、現在ではそれしか有していないのだが、『コード』と呼ばれる力。 そのコードの力によって、C.C.は不死の存在となった。 物理的な外傷は短時間で再生するし、餓えはしても死は訪れず、年も取らない。 時間の流れより取り残された、呪われし魔女。 そういう存在に、少女は成った、いや、成らされたと言うべきか。 もう、どれほどの昔かも思い出せない過去。 C.C.は彼女にギアスの力を与えた女性に、コードを押し付けられたのだ。 コードとは、力ではなく、呪い。 あらゆるギアスの能力が無効になる力ともう一つ。 いかなる手段を持ってしても、どのような残酷な手段を用いられようとも、死ぬことの出来ない存在にされる、呪い。 その呪いから逃れる手段は一つ。 他のギアス能力者に、それを押し付ける事。 それも、唯の能力者ではなく、ある程度以上にまで力を発現させた者に限る。 誰かに力を与えて、それでハイさようなら、とはいかない。 C.C.に力を与えた女性も、彼女の力がその域に達するまで、じっと待ち続けていたのだから。 理解者の仮面を被りながら。 人の理より外れ、人を力に誘う魔女。 それが、コードを与えられた者に待つ定め。 人に愛されるという力を持っていた少女は、 聖女のように扱われ、貴族や王族達に宝物のように求められていた少女は、 人々を誑かした魔女へと落とされた。 そうして、彼女は長い年月を生き続けて来た。 望みは唯一つ、自らの死を迎える事。 長い間一所に留まれぬ身である為に、世界中を流れ暮らした。 折りしも時は魔女狩りの時代。 処刑された事も一度や二度ではない。 望みが無い相手は捨ててきた。 力を与えた相手に裏切られた事もある。 超越者として崇められ、そして後に恐れられた事もある。 その手を汚した回数も覚えていない。 今も少女は一人、彷徨い続ける。 呪われた魔女の刻印と共に。 何時しか、己の望みすらも希薄になりながら。 ◇ 見えたのは、断片的な記憶。 詰め寄る群集、向けられる刃。 自らの身が焼かれる匂い。 数多の方法で与えられ続ける苦痛と絶望。 そして孤独。 甘美な味わいと共に、不快な感情が流れ込む。 それは何処か懐かしくもあり、それがまた更に不快感を呼び寄せる。 苛立ちを紛らわすように顔を離した事で、女性の口から零れた血が少女の頬に落ち、白い肌に赤い筋を記す。 唾液が交じった事で粘度の上がったそれは、ゆるゆると少女の顔を下り、唇の端に流れ込む。 少女を眺めていた女性が、その様を見て、再び顔を寄せた時、突如、今まで動かなかった少女が動いた。 鋭い動作で左の肘撃ちを放ち、そのまま女性の方を向こうとしたところで、 「…………っ?」 バランスを崩す。 表現するなら、急に地面が無くなった、という感じの動きであろうか、背中から布団に転がるように、後ろ向きに落ちている。 いや、実際に無くなったのだ。 2人が居た場所は、太い木の枝の上。 先ほど、C.C.が急に消えたように見えたのは、木の上にいた女性に引きずり込まれたから。 いきなり首を折れそうな力で鷲づかみにされて、一時的に意識を奪われていた為、自分のいる場所を把握出来ていなかったのだ。 そうして、自然の理に従い落下していくC.C.……と思いきや、それは途中で止まる。 それは状況の把握できていないC.C.によるものではない、そうなると当然、原因は消去法で決まる。 肘撃ちされた筈なのに、まるで効いていないといった風情の女性が、片腕でC.C.の右足を掴んだのだ。 「目が覚めていたのですか」 「…………」 暢気をそうに言い放つ女性を、逆さ吊りの姿勢のまま、C.C.は睨み付ける。 気絶している間に付けられたのだろう、左の肩口に追った傷を手で押さえながら。 とはいえ、そんな姿勢からでは怖くも何ともないが、それでも女性の目……があると思われる場所を睨みつける。 それを、まるで子猫が噛み付いてきたとでもいうような風に受け流しながら、腕を持ち上げて木の上に立ち上がる。 C.C.よりも遥かに長身の女性に吊り下げられているため、女性の腹の辺りにC.C.の顔が来る。 豊かな胸が顔を睨むのに少し邪魔になる。 「頑丈なのですね、貴女は」 「あいにくと、な」 関心したように言う女性に皮肉で返す。 お前に言われたくは無い、と言外に込めながら。 実際、女性の肉体能力は異常な部類だろう。 身長こそC.C.よりも高いが、腕の太さはそれほど変わらないようだ。 太ももから尻に至るラインの豊かさは、C.C.の方が上かもしれない。 もっとも胸の膨らみでは完敗だろう、豊かな双丘が服から零れそうになっている。 「服のサイズを間違えていないか? それではまるで恥女だぞ」 「おや」 その言葉の何かが気に障ったのか、女性は空いてるほうの手でC.C.の首を逆手に掴み、そのまま持ち上げる。 手首の動きで身体が半回転させられ、同時に首に体重が掛かり、首吊りの形にされる。 「貴女に恥女などと言われたくないですね。そんな格好で無防備に歩いているなんて、誘っているようにしか見えませんよ」 「お前、に、服装の事で文句を言われる筋合いは無い、な……」 息も絶え絶えに、C.C.が答える。 C.C.も割と恥じらいとは無縁な女性ではあるが、目の前の女性もそれほど負けてはいないように見える。 C.C.よりも長い、ふくらはぎの辺りまで届く紫の髪。 サイズの合わない黒のボディコンスーツとでも言おうか、肩から胸のラインまでが丸見えで、丈も下着が見えそうなほど短い衣服。 衣服と同色の長手袋と、ロングブーツと、とても扇情的な衣装であるが、極めつけはその目。 正確にいえば、目を覆う眼帯であろう。 黒紫の皮で作られたと思しき眼帯をつけていて、瞳どころか睫毛の色すら見られぬのに、何故か正確にC.C.の位置を捕捉しているようだ。 C.C.の苦悶を目にして、僅かに嗜虐的な表情を浮かべている。 その微笑みは、何故かC.C.に蛇を連想させた。 そうして女性は微笑を浮かべたまま、再びC.C.の身体を乱暴に組み伏せる。 まるで膝の上に抱っこをするかのような姿勢にC.C.を固定し、両腕を握り拘束する。 どうにか抵抗しようとするが、力任せに握られた腕は逆にミシミシと折れそうな感触を伝えるのみ。 そうして、女性は器用に顔だけでC.C.の拘束服の襟を肌蹴ける。 飾り気の無い白の下着に包まれたふくよかな乳房が零れる。男ならば確実に獣欲を誘われているだろう。 だが、女性が求めるのは、その少し上。 銀の首をより少し下の位置にある、真新しい傷口。 白い肌に赤く刻まれた痛々しい傷跡。 流れ出した血液が鎖骨の窪みに僅かに溜まっている様に、女性はチロリと舌を舐める。 鋭い上下の犬歯が僅かに唾液の糸を引き、それが重力に従いC.C.の肌に垂れるのと同時に、その傷口に歯を立てた。 「……っ……やっ……あ」 痛みで敏感になった肉を再び抉られる痛みに、C.C.が苦悶の声を上げる。 傷跡は、先ほど同じ凶器、女性の犬歯によって付けられたもの。 だが、女性の目的は傷を付けることでは無い。 「く…………ぅ、どんな、つもりだ」 女性は、C.C.の血を吸っているのだ。 傷口を深く抉り、新鮮な血を求めて吸う。 勢いから外れ、肌の上を溢れる血に舌を這わせる。 肉を抉られる痛みと、肌を這う舌のくすぐったさに、C.C.の顔が朱に染まる。 同時に味合わされるのは未知である感覚に、C.C.の全身が弛緩し、女性に身体を預ける形になる。 「く、っ…………ぁぁああぁぁっ!!」 「ふふ……」 C.C.の悲鳴を心地良さそうに聞きながら、ある程度満足したのか女性は口を話した。 唇に付いた血を舐めとりながら、満足そうにC.C.を見下ろす。 普段と違う場所に口をつけたせいで、口の中に溢れた血が少し零れてしまった。 溢れた唾液と混ざって乳房のほうに流れ、飾り気の無い下着に染みを付ける。 「いくつか、聞きたい事があります」 「……っ、ふ、私が、ぁ、答えると思うのか?」 「おや、それではもう少し深く頂くとしましょうか」 「……あっ……ぁうぅぅっっ!!」 歯の立ててある傷口に、強引に舌を刺しこみ広げる。 中々芳醇な部類の味わだろう。流石に未経験の味には及ばないが、それでも悪くは無い。 本当なら首筋に口をつけて、直接動脈からすすりたいのけれど、首輪が邪魔。 首輪を吹き飛ばしてその生首から零れる血を飲み干すのはあまり嬉しくは無い。 動悸の上昇によるものだろうか、仄かに滲み出した汗の匂いが食欲をそそる。 血液の現象によるものか、はたまた体内に異物を挿入されている為か、息が荒く、頬が染まっている。 まるで欲情しているようだが、それでも涙を浮かべる瞼の奥、未だに鋭い眼光が、そうではないと主張する この状況で、なお睨みつけてくるその強気な表情が、さらに嗜虐心を刺激する。 「魔女、ですか」 「な……に?」 「貴女は、魔女だそうですね」 「……っ」 断片的な記憶。 古びた映写機に映る風景のように、断続的に見えたもの。 女性の持つ能力の1つではあるが、今はそれは用いていない。 「……ああ、私は魔女だ」 「何が悪いわけでもない、それでも、貴女は魔女と呼ばれ、迫害され」 「…………」 「そうして、長い年月を彷徨い続けた」 だから、それが見えた原因は他に存在している。 C.C.の持つコードの力の内の幾つか。 相手の脳に直接ヴィジョンを叩き込むものが、命の危機に瀕して発動したのだろう。 「……聞きたいのはそれだけか」 「…………」 「おい」 聞いたきり、何事か考えている女性に、C.C.が苛立ち紛れの声を上げる。 隠し通したい事柄ではないが、積極的に知られて嬉しいものでは勿論無い。 痛みも多少薄れ、血も少し戻り始めてきた為、C.C.の全身に力が戻り始めている。 だが、それでも万力のような力で握られている両腕は動かせそうに無い。 どうせ呆けるなら力も抜けば良いものを、と表情の見えぬ女性に心の中で文句を言う。 と、そこで再び女性が動く。 三度、C.C.の首筋に噛み付き、再び血をすすり始める。 「ぐ……ぅぁぁぁぁぁあっっっっっ!!!」 既に乾き始めた所に再び口を付け、舌で舐め、吸い、強引に潤いを取り戻させる。 今までの舐めるような勢いとは違い、まるで全身の血を吸い尽くすかのような勢い。 C.C.が甲高い悲鳴を上げ、首を降り、のけぞる。 それにより傷口が広がり、また吸血される量が増えるという循環が生まれ、しばらくC.C.の喘鳴が辺りに響いたが、やがてそれは小さくなっていった。 悲鳴が蚊の鳴くようなものになってもなお、しばらく吸血を続けていたが、やがて口を放す。 C.C.は最早動きはなく、たまに不随意的に反応をするだけだが、それでもその口からは微かな呼吸音が発せられていた。 その様子を見て、女性はC.C.の両腕を離し、自分の膝の上に横たえる。 「貴女の、名前は?」 「…………ぅ」 答える気がないのか、気力がないのか、C.C.は返事をしない。 だが、再び動こうとする女性を見て、何とか声を出す。 全身から血を抜かれる拷問にかけられた経験もあるが、それでも慣れるものではない。 「……っぁ……C.C.……とでも、呼べ」 「それは、本名では無いでしょう?」 「そんなものは、忘れ、た……ぁぅ……本当、だ……、名簿にも、そう書いてある!」 「ふむ、そうですか」 常人なら致死量にあたる量を奪ったが、どうやら本当にこの程度では死なないようだ。 もっとも、血を奪われては身体は上手く動かない。C.C.はぐったりとしてされるがままになっている。 両手の袖を取り、自らの身体を抱くように背中に回す。 そして、袖のベルトで両手を固定する。 僅かな抵抗をも奪った後で、足も同じように揃えて固定する。 これで自力では這う事しか出来ない。 襟の部分はそのままにしておく、後でまた血を吸いやすいように。 「気が変わりました」 「…………?」 最初は、殺すつもりだった。 女性に迷いは存在しない。 彼女は彼女の真のマスターの為に戦う存在であり、その為に他者を殺す事等など何とも思ってもいない。 肉体の動きが鈍いことは最初に理解出来た。 全身の魔力の低下も、見過ごす事は出来ない。 名簿から、セイバー、アーチャー、キャスター、そしてバーサーカーなど、手強い敵の存在を知った。 何故ランサーとアサシンの名が無いのか多少疑問を抱きはしたが、それは直に忘れる事にした。 どうでもいいことだから。 だから、餌を求めた。 彼女らはサーヴァント。 それは魂喰らい。 人の魔力を、魂を喰らう事で己の力へと帰る存在。 血を吸う事で魔力を奪い、同時に優勝に近づく。 そういう一石二鳥の行動であったのだが、取りやめる。 「どういう、つもりだ」 「いえ、死にづらいというなら、精々役に立ってもらおうと思っただけですよ」 流石に本当に死なない、という事はこの場では無いのだろう。 それでも、再生するというならば、魔力の補給源としては最適。 持ち運ぶのにも不自由しない大きさであるし、丁度いい服装でもある。 だが、それだけ理由というわけでもない。 大きく、2つ。 二つの理由が無ければ、女性はC.C.を殺して放り出していただろう。 その事に言及するでもなく、女性はC.C.を肩に担ぐ。 「待て、そういえばお前の名前は何と言うのだ」 これからどうされるのか判らないが、それでも何処かに運ばれると理解してC.C.は声を上げる。 「ああ、そういえば自己紹介していませんでしたね。 私は、ライダーとでも呼んで下さい。 一応、貴女と同じく名簿にはそう書かれていますよ」 ◇ 女性、サーヴァント・ライダー 聖杯戦争という魔術儀式に、騎兵のクラスとして呼び出された存在、故にライダー。 その本名は、ギリシャ神話において名を知られる、怪物、反英霊メデューサ。 人を石に変えるゴルゴン三姉妹の末である。 だが、怪物とは何か? それは、人にあらざる存在。 人に崇められる存在は神とされ、人に恐れられる存在は怪物とされる。 かつて、ゴルゴン三姉妹とは、大地の神性であった。 だが、その美しさ故に他の神々の嫉妬を受け、追放された存在。 かつては美しい女神であった彼女は、その身に人々の憎しみを受けるようになった。 始めは、身を守るためであった。 己を狙い襲い来る人間達を、倒し、屠った。 そうしなければ、自分が死んでいたのだから。 だが、それがいつからだろうか。 或いは殺した相手の生き血を啜るようになった頃からか、彼女は、自ら人々に害を成す怪物へと成り下がっていた。 始めは、被害者だった筈なのに。 何の罪を犯したわけでも無いのに。 何時しか彼女は、嬉々として加害者になっていた。 その後の彼女がどうなったのかなど、誰でも知っている。 英雄ペルセウスの物語。 怪物は、怪物らしく、英雄の名声の糧となった。 ◇ そんなものが、理由であったかもしれない。 背負う荷物に理解されたいとも思わないし、教える気も無い。 ただ、何となく気が進まなかっただけ。 「貧血気味だ、ピザでも寄越せ」 「生憎ですが、食料に食事を要求する権利はありません」 「ケチめ」 宝具は未だ試していないが、用いるとなるとやはり大量の魔力が必要だろう。 そうなると、何処か人の集まりやすい場所に向かうべきかもしれない。 何時の間に元気を取り戻している少女、C.C.の声を聞き流しながら、ライダーは夜闇に消えた。 ◇ 【E-6/公園/一日目/深夜】 【ライダー@Fate/stay night】 【状態】:健康、魔力充実、お肌つやつや 【服装】:自分の服、眼帯 【装備】:無し 【道具】:基本支給品一式、C.C.、ランダム支給品0~3個(本人確認済み、直接打撃系武器無し) 【思考] 基本:優勝して元の世界に帰還する。 仮に桜が居た場合は桜を優勝させる。 1:魔力を集めながら、何処かに結界を敷く。 2:出来るだけ人の集まりそうな街中に向かう。 3:C.C.は負担にならない限りは持ち歩く。 【備考] ※参戦時期は、第12話 「空を裂く」より前。 ※C.C.の過去を断片的に視た為、ある種の共感を抱いています。 【C.C.@コードギアス 反逆のルルーシュR2】 【状態】:体力枯渇、貧血気味、左の肩口に噛み傷(全て徐々に再生中) 【服装】:一部血のついた拘束服(拘束中) 【装備】:無し 【道具】:基本支給品一式、ランダム支給品0~3個(本人確認済み、チーズ君人形以外の何か。 あまり異常なものはない) 【思考] 基本:ルルーシュを探す。 0:満足に動けない。 1:出来ればこの状態から脱したい。 【備考] ※参戦時期は、TURN 4『逆襲 の 処刑台』からTURN 13『過去 から の 刺客』の間。 ※制限によりコードの力が弱まっています。 常人よりは多少頑丈ですが不死ではなく、再生も遅いです。 時系列順で読む Back 5910 ~隔離された小島で~ Next そんなことはどうでもいいんだ、重要なことじゃない 投下順で読む Back 5910 ~隔離された小島で~ Next そんなことはどうでもいいんだ、重要なことじゃない ライダー 062 アカイイト C.C. 062 アカイイト
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施設名 商品名 値段 ショッピングセンター ミネラルウォーター 120ペリカ 拳銃 (エンフィールドNo.2) 1000万ペリカ 散弾銃(モスバーグM590) 2000万ペリカ バイク(V-MAX) 3000万ペリカ タコス移動販売車(片岡優希仕様) 4000万ペリカ ヘリコプター(燃料極小) 1億ペリカ 蒼崎橙子作の義手(右) 1億ペリカ 蒼崎橙子作の義手(左) 1億ペリカ 蒼崎橙子作の義足(右) 2億ペリカ 蒼崎橙子作の義足(左) 2億ペリカ 蒼崎橙子作の内臓 1億5000万ペリカ ナイトメアフレーム RPI-V4L ガレス 2億ペリカ サービス 義肢取り付けサービス 無料 皮膚の移植サービス 3000万ペリカ 闘技場 ピザ(ピザハット) 1000ペリカ 拳銃 (南部14年式) 1000万ペリカ 日本刀(太刀) 1000万ペリカ 長剣(グレートソード) 1000万ペリカ 短剣 (ダガー ) 500万ペリカ 銃剣(ベヨネッタ) 2000万ペリカ ソードブレイカー 1億ペリカ 地雷 100万ペリカ エレキギター(ランダム) 50万ペリカ エレキベース(ランダム) 50万ペリカ ドラムセット(ランダム) 50万ペリカ キーボード(ランダム) 50万ペリカ サービス ライブ会場サービス 料金不明 ギャンブル船 麻雀牌セット 1万ペリカ 脇差 100万ペリカ デリンジャー 600万ペリカ トカレフTT-33 800万ペリカ ベレッタM92 900万ペリカ 牌譜 1000万ペリカ 手榴弾セット 1000万ペリカ 陸奥守吉行 2000万ペリカ 鬼神丸国重 2000万ペリカ RPG-7(グレネード弾×3、煙幕玉×2付属) 2500万ペリカ 参加者1人の位置情報(1時間) 3000万ペリカ 軍用車両 4500万ペリカ ホバーベース 1億3000万ペリカ 機動兵器一覧 MS(A.C.195) OZ-06MS リーオー 2億ペリカ OZ-07AMS エアリーズ 3億ペリカ MS(A.D.2307) MSJ-06II-Aティエレン地上型 2億ペリカ SVMS-01ユニオンフラッグ 4億ペリカ SVMS-01O オ-バーフラッグ(※先着1機のみ) 4億5000万ペリカ ヨロイ サンキュー海サイッコー号 1億ペリカ ブラック・クレイドル(有人) 2億ペリカ KMF RPI-11グラスゴー 1億ペリカ RPI-13サザーランド 1億5000万ペリカ オプション MS シールド(リーオー用) 2000万ペリカ ビームサーベル(リーオー用) 3000万ペリカ ビームライフル(リーオー用) 5000万ペリカ KMF アサルトライフル 1000万ペリカ スタントンファ 1000万ペリカ 大型キャノン 3000万ペリカ メーザーバイブレーションソード 5000万ペリカ その他 多数 サービス エスポワール号出航サービス 料金不明 死者の眠る場所 ピザ(ピザハット) 1000ペリカ 拳銃 (コルト・パイソン) 700万ペリカ 日本刀(打刀) 800万ペリカ サブマシンガン(グリースガン) 1600万ペリカ マシンガン(MG3) 2000万ペリカ 対戦車擲弾発射器(パンツァーファウスト) 2500万ペリカ 自転車 500万ペリカ バイク 2000万ペリカ 乗用車 3000万ペリカ トレーラー 5500万ペリカ 花束 500ペリカ 柄杓 500ペリカ 手桶 1000ペリカ 箒 1000ペリカ 線香(マッチ付き) 1000ペリカ サービス 断末魔サービス(ショートバージョン) 10万ペリカ 断末魔サービス(ミドルバージョン) 30万ペリカ 断末魔サービス(ロングバージョン) 50万ペリカ 薬局 ポカリスエット 120ペリカ ハーブティー各種 1000ペリカ 注射器 3000ペリカ 風邪薬 300ペリカ 痛み止め薬 500ペリカ 包帯(20m・1巻) 2000ペリカ 救急車 5000万ペリカ 他酒類各種 サービス アンリ・マユによる治療サービス ※先着1回限りのサービス 治癒魔術による治療サービス 1億ペリカ 憩いの館 飲料水1L 120ペリカ 『ガラナ青汁』『きなこ練乳』『いちごおでん』各種セット 500ぺリカ 携帯食 1000ペリカ 清澄高校の制服 5000ぺリカ 救急セット 100万ぺリカ コルトガバメント(マガジン7発入り×4もセット) 1000万ぺリカ 接着式投擲爆弾×10 3000万ペリカ ヨロイ・KMF・モビルスーツ各種完全型マニュアル 4000万ぺリカ メタルイーターMX 5000万ペリカ リリーナの防弾仕様リムジン(ピンクとゴールドの二種類があります) 6000万ぺリカ 濃姫のバンカーバスター 7500万ぺリカ 設置型ゲフィオンディスターバー(使い捨て) 1億5000万ペリカ 機動兵器一覧 RPI-209 グロースター 2億ぺリカ VMS-15 ユニオンリアルド 3億5000万ぺリカ OZ-12SMS トーラス 8億ぺリカ サービス 『戦場の絆』プレイ時に自機が選択可能 1000万ペリカ 象の像 象の像(ミニチュア) 100ペリカ お守り(健康・安産・優勝) 1万ペリカ 矢×10 10万ペリカ リフレイン 10万ペリカ ブラッドチップ(スペック:低/高) 50万ペリカ 弓 500万ペリカ カラドボルグⅡ(レプリカ) 1000万ペリカ ゲイボルグ:(レプリカ) 1500万ペリカ エクスカリバー(レプリカ) 2000万ペリカ 長刀 2000万ペリカ 鎧・兜 2000万ペリカ 警備ロボット 3000万ペリカ オートロボット 6000万ペリカ スーパーカー(フェラーリ・エンツォ、赤) 8000万ペリカ 機動兵器一覧 RPI-212ヴィンセント 2億3000万ペリカ OZ-07MSトラゴス 3億ペリカ GNR-010オーライザー 4億ペリカ 富岳 5億ペリカ サービス 換金律2倍 この換金機で首輪を換金した場合、金額は2倍になる 遺跡 天然水 150ペリカ ジュース 200ペリカ オール 1000ペリカ ゴムボート 5万ペリカ 照明器具 10万ペリカ モーターボート 100万ペリカ 西洋剣 1000万ペリカ アサルトライフル(AK-47) 2000万ペリカ GNミサイル(2発) 4000万ペリカ 木造船 6000万ペリカ 揚陸艇 1億ペリカ 機動兵器一覧 ポートマンⅡ 2億ペリカ OZ-09MMSパイシーズ 3億ペリカ ドラクル 5億ペリカ サービス 転送装置 1人につき3000万ペリカ 入力した任意の座標へ空間転移できる。ただし範囲は会場内に限定 E-2学校 油性ボールペン(黒) 200ペリカ 油性ボールペン(赤) 200ペリカ 油性ボールペン(青) 200ペリカ 修正液 400ペリカ ノート 200ペリカ マジック(12色セット) 1500ペリカ 給食(一食分) 500ペリカ 硬式野球用 金属バット 25000ペリカ 硬式野球用 ボール 1000ペリカ 硬式野球用 グローブ 35000ペリカ カーボン竹刀 25000ペリカ 剣道着・袴セット 20000ペリカ 剣道用防具一式 60000ペリカ 焼き土下座機 800万ペリカ 巨大ピザ専用オーブン 2500万ペリカ サービス 伝言サービス 伝言の録音は1分につき50万ペリカ、最大3分まで。聞ける人間を指定するオプション利用には追加で100万ペリカ E-7学校 サービス 伝言サービス 伝言の録音は1分につき50万ペリカ、最大3分まで。聞ける人間を指定するオプション利用には追加で100万ペリカ 廃ビル オートマトン三機 1億ペリカ 紅蓮弐式 3億ペリカ サービス まとめ売り
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641 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/03(金) 18 11 04 ID nvGC8W62 ロリブルマ「ふふーんだ!そっちがルール無用ならこっちだって考えがあるんだから!」 カマやん「頼むぞ、聖杯よ」 ロリブルマ「任せといて!行くわよ! やっちゃえ!バーサーカー!」 ムギ「…そんな!」 バーサーカー「■■■■■■■■■■■!」 ロリブルマ「どう?主催者権限で死者スレ内に限り令呪復活よ!」 D「きょ、狂戦士復活ーっ!琴吹選手防戦一方だーっ!」 K「令呪による強制召喚ならびに命令強制か…この畳み掛け方は流石だな」 カマやん「さて…来たか」 ライダー「魔術師!勝負です!」 アーニャ「狙いは飽くまでイリヤ」 D「あーっと!アーニャ騎、上空からイリヤ騎を強襲ーっ!」 K「サーフィンボードアタックか、ふむ」 642 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/03(金) 18 43 58 ID b8I0wJ.c 上条「だぁぁっ、いい加減目を覚ませ御坂!」 ビリビリ「何よ! あのちびっ子とはあんなに楽しそうにじゃれてた癖に、私とは話すのも嫌だっての!? そりゃ、私には胸も無いし、可愛いげも色気も無いけど……私だってアンタの事……!」 上条「駄目だ、幻想殺しが効いてねえ! 畜生、どうにか出来ないのかよ! 何で俺はこんなに無力なんだよ……!」 アーチャー「……止むを得ん、最後の手段だ」 上条「何か手があるのか!?」 アーチャー「見た所、この術式はイリヤの服装が核になっている。 つまり、イリヤを「タイガー道場の一番弟子・ロリブルマ」というキャラクターに置き換える事で術式を固定しているという訳だ」 上条「いや、さっぱり意味不明なんですが」 アーチャー「つまり……こういう事だ!」 上条「え、な、何だこれ!? 何で上条さんいきなり張り付けの刑に!?」 アーチャー「動くなよ、的が外れる。 ……上条ミサイルアロー、発射!!」 上条「ふ、不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァーッ!!!」 D「ああっとおぉぉぉぉ!! プールサイドから上条当麻を括り付けた巨大な矢が発射されたぁー!」 K「む、流石に幻想殺し相手では荒耶の結界も通用しないか。 矢自体は外れたが、上条当麻がイリヤにしがみついたようだ」 D「な、なんとぉぉぉぉぉ!! イリヤスフィール選手の体操着が消え、水着があらわにーーー!! このままブルマも消えてしまうのでしょうかーーー!!」 K「さて、バーサーカーが助けに入ったからな。 そう簡単には行くまい」 643 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/03(金) 19 13 08 ID hF5V4Iig バシャバシャバシャバシャ!!!! 妹A「貴方は計画の邪魔になるので排除します、とミサカは主催サイドの目的を建前に持ち出します」 妹B「貴方は私達ミサカシリーズのモノです、とミサカは心中を暴露します」 上条「ちょ、お前達引っ張るな、ってどこ触っているんだ///」 妹C「とりあえずロリブルマから離れて下さい、とミサカは上条当麻の右足を引っ張ります」 妹E「ハーレムは最高ですよ、とミサカ達はちょっと顔を赤らめながら左足を引っ張ります」 上条「ふ、不幸だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァーッ!!!」 ザッパーン! D「おおっと!ミサカシリーズが上条当麻を捕縛!!イリヤスフィール選手のブルマは守られたぁーー!」 イリヤ「あ、危なかったわ…」 妹D「ミサカABCEはどうしてしまったのか、とミサカは困惑気味に見つめています」 妹G「今はそれよりアーニャから逃げましょう、とミサカは提案します」 イリヤ「よし、妹D妹Gのブースト承認!アーニャを水中に落として優勝を貰うわよ!!」 ???「そうはいきません」バシャ! 妹D「なに!!これでは動けない!!、とミサカは驚愕の表情を出します」 イリヤ「しまった!貴方の存在を忘れていたわ!!」 妹G「何故あなたは正常なのですか、とミサカは驚きつつ質問をします」 ファサリナ「フフフ、どうやら気絶して平気だったようです」 D「なんとぉー!!ファサリナ選手が妹D選手と妹G選手を抑えたぁー!さらに上空からはアーニャ選手が迫ってきている!!」 644 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/03(金) 20 05 38 ID hF5V4Iig ヒイロ「ファサリナ、よくやった」 ムギ「ザ・自爆!ガンダムバカにゴーストも!」 真宵「オーナー、大丈夫ですか?」 ムギ「ええ、ちょっときついけどまだ大丈夫よ」 ライダー「しかし、バーサーカーの裏切りは予想外です。魔術師も相手にしなければならないのに、骨が折れるわ」 アチャ「なら私がバーサーカーの相手をしよう。お前達は荒耶宗蓮を任せる」 海原「……また一人で倒すと言うのですか?無謀ですよ!貴方の攻撃は耐性で効きませんよ!」 アチャ「ふん、時間稼ぎぐらいにはなるさ」 ムギ「なら、アーチャーさんとライダーさんはバーサーカーさんを食い止めて下さい。私は海原君と共にあの魔術師を討ちます」 アチャ「……いいだろう。ライダー、足を引っ張るなよ」 ライダー「それはこっちのセリフですよ」 刹那「では、俺達は事態収拾のためにイリヤスフィールの捕縛しに向かう」 ムギ「ええ、任せるわガンダムバカ。ゴースト、彼らの補佐を宜しくね」 真宵「任せて下さい!」 カマやん「ふむ、戦力増強と共に各個撃破しに来たか。サーシェス、イリヤスフィールを狙う輩を排除しろ」 首輪ちゃん「オーケー!あのガキ共は俺に任せな!くぅーっ!この緊張感、ワクワクするぜぇ!!」 カマやん「アーチャーとライダーでバーサーカーを食い止めるか。それに琴吹紬と魔術師エツァリ……もう一人ぐらい戦力が欲しいところだが」 ことみー「なら私が手を貸そう」 カマやん「言峰綺礼か。実況中継の解説はどうした」 ことみー「今の私は審判だ。ただ暴徒を抑えに来ただけさ」 カマやん「そうか、ならその手を借りるぞ」 ヒイロ「まずい、ファサリナが妹達の電撃攻撃を受けている。急ごう」 リリーナ「ヒィィィイィィィロォォォォオオオオ!私を放っておいて何で他の女を殺そうとしているのかしらぁぁぁぁぁぁああああああっ!!!」 ヒイロ「なんだリリーナ!邪魔をするな!!」 リリーナ「うるさい!!!早く私を殺しにいらっしゃああああああああああああああい!!!」 ヒイロ(ぐっ、なんだこのプレッシャーは!殺される!!) 刹那「ヒイロ、彼女の事はお前に任せた。俺達はブルマを取りに行くぞ!」 ヒイロ「ちょ、刹那!俺をおいていくな!」 首輪ちゃん「ところがぎっちょん!!そう簡単に行かせる訳がねぇぇぇだろう!!!」 刹那「サーシェス!邪魔をするな!」 首輪ちゃん「おう、クルジスのガキかぁ!それに軍師気取りのクソガキ!さあ、一緒に戦争を楽しもうぜぇぇぇえええ!!!」 真宵「これは厄介ですね」(サーニャさん、もうしばらく一人で頑張ってください!) 646 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/03(金) 20 26 38 ID eF7/jpbY レイ「水をくれ」 黒桐「まいどー」 レイ「…………」 黒桐「レイさん」 レイ「何だ」 黒桐「彼女達は一体何をしているんでしょうか」 レイ「騎馬戦だ」 黒桐「僕には世界びっくり人間ショーに見えるんですけど」 レイ「……騎馬戦だ」 黒桐「さっきから人が空飛んだり水着からピザが出たり騎馬組んだまま波乗りしたり気合いで銃弾撃ち落としたりしてるんですけど」 レイ「気にしたら負けだ」 黒桐「しかし!」 レイ「ここでの騎馬戦は人が空飛んだり水着からピザが出たり騎馬組んだまま波乗りしたり気合いで銃弾撃ち落としたりするのが普通なんだ」 黒桐「…………はぁ。なんか達観してますね」 レイ「狂ったもの勝ちだからな、ここは」 黒桐「そんなものですかね」 レイ「そんなものだ」 647 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/03(金) 21 36 57 ID sw5.tDdU ロリブルマ「全くレディを裸にひん剥くなんてなに考えてるの?!シスターズ!念入りに殺しておきなさい!」 妹A「願ってもない事です、とミサカはロリブルマに感謝します」 妹B「やはり究極の愛はカニバズムですね、とミサカは口をぬぐいます」 妹C「その前に拘束した挙句●●●でしょう、とミサカは官能的な提案をします」 妹E「エンジョイ&エキサイティング!とミサカはルパンダイブします」 上条「不幸だあああああああああああああああああああ!」 ビリビリ! 妹ABCE「「「「ウワァーッ!とミサカは車田演出的に後方に吹っ飛んで気絶します」」」」 上条「く、くそ!この殺る気満々の電撃は…?!」 ビリビリ「あんた達ねぇ…わたしと同じ顔して犯る事が汚いのよ…」 上条「お前はアーチャーが抑えていたはず?!あ…(バーサーカーと戦うアーチャーを見る)なにやってんだよ、あいつは!?」 ビリビリ「ねぇ…あんたさぁ…まだあたしの全力、食らった事ないわよねぇ?」 上条「ま、待て!話せばわかる!」 ビリビリ「うっせー!タラシは黙ってろーっ!全力!超電磁砲ンンンンンン!!」 カッ! 上条「ひっ?!あ、あれ…?」 ビリビリ「あたしとあんたの戦いを邪魔されたくないのよ…引っこんでろ、化け物ども!」 D「おーっとぉ!御坂御琴の全力レールガンがアーチャー、ライダー、バーサーカーに炸裂! バーサーカーはワンキルですぐに立ち上がったが、アーチャーもライダーもグロッキーだぁぁぁぁ! アーニャ選手、ライダー選手が放り投げたおかげでかろうじて空中に難をのがれたが、もはや落下するのみ! これは決まったかぁ?!」 D「あ、解説いなかったか…張り合いが無い…。ともかく、フリーになったバーサーカーがなおも琴吹紬を狙う狙う狙う! さらにエツァリうずくまったぁー!さらに逃走ーっ!いや、向かった先には御坂御琴ぉーっ! どうやらラブアタックをかける模様です!」 海原「御坂さん!今まで言えなかった事を言います!すk…」 ビリビリ「引っこんでろっつってんだろ!ドサンピン!」 バシュゥゥゥゥゥゥ… D「逝ったぁぁぁぁぁぁ!エツァリ消滅!消滅です!上条当麻、一歩も動けずぅぅぅぅ!」 ビリビリ「あんたが正々堂々とあたしと戦わないからどんどん人が死ぬじゃないの! さぁ来なさいよ!全力でぶっ潰してあげるから!」 上条「そうか…分かったよ…なら全力でお前を止めてやる!」 D「御坂御琴と上条当麻のガチンコ開始ぃぃぃ!」 648 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/03(金) 21 43 53 ID sw5.tDdU D「さらにバーサーカー&言峰氏が琴吹紬を蹂躙んんん!耐え忍ぶのがせいぜいかぁーっ!」 ロリブルマ「ふふーんだ。あとはあの無口が落ちてきたら試合終了ね。 そしたら死者スレに用はないから状況を放っておいて現世に戻ろうっと」 ひゅーん、どさっ! アーニャ「そうはいかない」 ロリブルマ「ちょ、ちょっと!上から降ってきてひっつかないでよ!レディの胸を直に触るなぁ!」 D「おーっとぉ、アーニャ選手、どう落下地点をずらしたのか!イリヤ騎の頭上に降ってきたぁーっ! 完全に組み伏せてます、アーニャ選手!それでも鉢巻きを取らないのはロリブルマに帰るタイミングをやらないためかぁーっ!」 アーニャ「ブルマー寄越せ」 ロリブルマ「そ、そんなこと出来るわけないでしょ?!それにこのブルマ、脱げなくなってるのよ!」 アーニャ「やっぱり。下調べの通り。結界の核もそこ」 ロリブルマ「!何故それを?!」 アーニャ「ブリタニア騎士の工作員としての実力を舐めないで」 刹那「実際に調べたのは俺だ」 真宵「情報を総確認して結論出したのはなにを隠そう私です!」 カマやん「ほう…貴様らの工作能力を舐めていたか…誰の差し金だ?」 ロリブルマ「どうでもいいでしょ!さっさと頭上のこの痴女を始末してよ!」 カマやん「興味はないな。そやつにブルマをどうこう出来る力はない。自力で排除してみろ」 ロリブルマ「げ、現世で殺してやるんだから!」 カマやん「どうとでも言え」 649 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/03(金) 22 24 50 ID b8I0wJ.c ムギ「くっ……ここまでなの……?」 K「ふむ、他愛無い。 この分ならばわざわざ出番る事も無かったか。 さて、後は任せたぞバーサーカー。 私はアールストレイムから反則を取り試合を終了させるとしよう」 ?????「そうは行くか」 バシュン!! K「む……これは偽・螺旋剣。 アーチャーよ、何故まだ立っている」 アーチャー「私の投影した天覆う七つの円環(ロー・アイアス)が、たかが女子中学生のコイントス風情に撃ち抜かれるとでも思うか?」 ライダー「かなりシビアでしたけれどね。 さて、私はアーニャ援護に向かいます。 貴方は言峰とバーサーカーの足止めを」 アーチャー「ああ。足を止めるのはいいが―――」 「別に、アレを倒してしまっても構わんのだろう?」 ライダー「ふ……大きく出ましたね。 では、任せましたよ」 K「……逃がしたか。 さて、暴徒の鎮圧を始めよう」 アーチャー「さて、鎮圧されるのはどちらかな?」 ムギ「私も……まだ終わっていません!」 バーサーカー「■■■■■■■■■■■■!!!」 650 :名無しさんなんだじぇ:2010/09/03(金) 23 03 39 ID FRKTbn0M みっちー「ああ、皆さん楽しそうですねぇ」 ヴァン「………」 みっちー「本当に楽しそうだ」 ヴァン「………」 みっちー「なのでこの拘束具を外してくれませんかねぇ?」 ヴァン(なんで俺がこいつの見張りしなきゃならねえんだ)
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See visionS / Fragments 9 『NO,Thank You!』 -秋山澪- ◆ANI3oprwOY 長い長い道のりの果てに辿り着いた。 その場所に、帰りたかった。 古びた木製の壁。 埃の落ちた床。 淡い日差しの差し込む四角い窓。 食器の詰められた茶色い戸棚。 どれもこれも少し黒ずんでしまっているけれど。 だけどここには全部、全部の記憶が、そろってる。 紛れも無いあの日が、ここにあった。 あの日のように、触れる金属は鈍い音を立てた。 あの日のように、弾く弦は震え空気を揺らした。 あの日のように、歌う歌は宙に響く。 だから、ここには、あの日の光が残ってた。 ずっと、ずっと、満たされていた。 眩しいくらい、輝いていた。 どうしようもなく、それらは今も綺麗に見えた。 だからいま、それらは全て、もう帰らない光なのだと、知った。 目の前には探し求めた物がある。 たどり着きたかった場所がある。 懐かしい、景色。 懐かしい、残り香。 懐かしい、誰かの気配。 ここにはきっと、だからきっと、全部が揃っている。 そしてだから、だからここにはもう、何も、何も、何も――何も無い。 なにもない。 「―――――は」 何も、無い。 「…………いよ」 滲み、歪み、湾曲する世界。 黒が全てを覆い尽くし、消えていく陽だまり。 遠く、遠く、遠い誰かの声を、私は聞いた。 「いらないよ」 思い出なんて、いらないよ。 ◆ ◆ ◆ See visionS / Fragments 9 『NO,Thank You!』 -秋山澪- ◆ ◆ ◆ 未だに慣れない操縦で、そこそこ長い道中を進み続けて。 到着まで要した時間はだいたい数十分程だろうか。 まだ日が傾くには早いはずだけど、雲に覆われた空じゃ時間の感覚も鈍ってくる。 雑草の生い茂る敷地内に侵入し、聳え立つ建造物、目的の場所ををモニター越しに確認してから、ブレーキをかけた。 瞬間、ぐんっとお腹にかかる圧迫感。機体を急停止させるこの動作だけは、今も馴染まない。 空気に体が潰されるようで、嫌いだった。 憂ちゃんはとても簡単に停止と再動を繰り返していたのだけど。 私にはやはり才能が無かったのだろう。そして才能と同じくらい、時間もまた足りはしない。 おそらく私が、秋山澪がナイトメアフレームの動作に慣れて、この島から出ることはないのだろう。 生か、死か、どのような結末を迎えるにせよ。 狭苦しいコックピットから降り、おそるおそる土の地面を踏みしめる。 平坦な場所に立った途端、足元が不安になり、座り込んでしまった。 どうにも平衡感覚がおかしい。滅茶苦茶な運転をしてきたのだから当然かもしれないけど。 付け焼刃な操縦技術で苦もなく来れたのは、この島に住民も交通ルールも存在しなかったからだ。 どちらかでも存在すれば、道中で何度大事故を起こしていたことだろう。 実際、路上に放置された無人の車に何度も躓いてしまい、三回ほど転んだ。 ルルーシュの元でも、彼から離れた後も、一人で何度も転倒からの復帰を練習していた成果はあったらしい。 「まだ……降ってるんだ」 酔いが少し覚めてきて、上げた顔にぽたぽたと当たるものがある。 今も、水の滴が頭上から降り注いでいた。 道中で一度雨脚が強まっていたから、当分止まないだろうなとは、思っていたけれど。 「でもそろそろ止みそう、なのかな」 それでもだいぶ、収まったような気はする。 この調子なら近いうちに完全に止むだろう。 夜が来る前に、もう一度青空を見ることだって出来るかもしれない。 いや、止むとしても夕方になっているだろうから、それじゃ茜色、かな。 空の色に意味があるかなんて、分からないけど。 「いったい、なぁ」 がんがんする頭をおさえながら、立ち上がる。 なんにせよ私はたどり着くことが出来たようだ。 無事、雨が止む前に、目的の場所に。 雑草茂る道のむこう。 大きな二階建ての建造物がある。 かつては古風で尊大な雰囲気を保った、立派な館だったのかもしれない。 けれどそれは今、全体の半分以上が黒々として、形を留めていなかった。 以前に、火災があったのだろう、それも小さな規模じゃない。 火の手自体は随分前に鎮火していたようだけど。 建物の二階部分はまさに全焼状態で、今にも崩れ落ちそうだった。 おそらく、火元は二階の西側だったのだろう。 比較的に火の回っていなかった一階も、西側はすっかり焼け落ちて、半焼状態になっていた。 「…………」 煤けた臭いと、そこに込められた悪意だけは、今もこの場所に充満している。 なぜこの館が燃やされたのか。私は知らないけど、どこか燃え方に違和感を感じていた。 完全に燃え尽きさせはしない、中途半端な火の及び具合。 そこに何の意味があったのか、素人目の私には分からないけど。 きっと誰かの、碌でもない意思があった。 そんな風に考えてしまうこと自体、私もこの場所に毒されているのだろうか。 違和感といえば、ここまで燃やされた館が崩れずに原型を保っている事自体、おかしいと思う。 まるで魔法の力だ。館に意思があって、無理やり倒れずに踏ん張っているみたい。 なんだか馬鹿みたいな感想だけど、もう私には魔法の力を否定することは出来なかった。 「そろそろ行こうか」 口に出して、怯える自分に言い聞かせる。 余計な感想とか、考察はいいんだ。 行かなきゃ何も始まらない。 館の前で立ち止まって、雨に打たれ続ける理由なんて、一つしか無い。 やっぱり私は怖いのだ。燃えて、今にも崩れそうな目の前の建物に入っていくのが。 不安だから、こうして理屈をこねて留まろうとする。 震える足で踏み出しながら、ここまで来た理由を反芻する。 きっかけは、数時間前の、一つの回想。 私の右頬を治癒した、一人の神父。 『君が次の戦いを生き延びることが出来たなら―――――に、行くといい』 あの男は言った。 そこに答えはあると。 あの時は意味が分からなかった言葉。 慇懃な笑い、全てを見通したような、嗜虐の目線。 悪意しか感じ取ることの出来なかった、諧謔だった。 『喜べ秋山澪、君の願いは―――』 今なら、私にも感じ取ることが出来る。 目の前に近づきつつあるものが、何であるか。 実態なんて知れない、けどきっと避けることの出来ないものだ。 向き合わなくてはならないモノだ。 それはきっと、いつかの『彼女』もまた、向き合った――― 『君の願いは、ようやく叶う』 座標、C-3。 施設、憩いの館。 燃えて、くたびれ果てたその場所に私は、足を踏み入れた。 ◆ ◆ ◆ 黒い、暗い、道だった。 館の内部は玄関から既に焼けていて、壁の色は勿論、床まで一面まっ黒になってしまっていた。 元が何色をしていたのかすら、もう分からない。 こんなに焼けてしまって尚、どうして建物は原型を保っていられるのだろう。 内側に入ってみて、私の疑問はいっそう強くなる。 やっぱり魔法、なのだろうか。 構造的な強度で説明する事の出来ない強さが、きっといま私のいる建造物には備わっている。 なんて考えれば、少しはざわつく心もマシになるのだけど。 頭の中は『引き返したい』という思いで埋め尽くされていた。 いつ、まっ黒な天井が落ちてくるか分からない。 いつ、まっ黒な床板を踏み抜くか知れない。 積もる不安に、自然と足が重くなる。 それほどに、私の視界は黒一色で埋め尽くされていた。 「……っ」 煤の臭いが鼻につく。 思わず咽せてしまう程の不快感に、取り出したハンカチで口と鼻を覆った。 まるで空気中に毒が舞っているかのようだ。 一刻も早くここを出たい。 息は詰まるし、体は汚れるし、建物自体が崩れ去るかも知れないのだから。 だけど―― 「………」 私は、進んでいる。 この道を、ノロノロとした動きで、だけど真っ直ぐに、進んでいた。 焼け焦げた廊下。 まっ黒で、汚くて、怖くて仕方がない、奈落へ続くような、この道を。 まるで異世界に迷い込んだみたいだ。 館内の見取り図なんて燃え尽きている。 デバイスの地図も施設内では役に立たない。 だから私は闇雲に歩いていた。 暗い道を、廊下に備えられた窓から差し込む、僅かな光を頼りにして。 ずっと突き当りまで進めば、当然、曲がり角が見えてくる。 右に行くか左に行くか、選択しなければならない。 そういうとき、私はなるべく火の手が及んでいない方向へ行くようにしていた。 少しでも、火災の被害が少ない場所へ、闇雲に。 無意識に、怖さを紛らわそうとしていたのか。 闇の中、一歩を踏み出すたびに、私は色々なことを思い出した。 角を一つ曲がるたびに、様々な場面が浮かび上がった。 それはこの場所で、これまでの私が辿った道の景色だった。 『誰も死なせたりしない』 それは、正義を信じていた少年の言葉。 『こんなふざけたゲームを壊してみせますの』 それは、正義を冠した少女の言葉。 『あはははははッ! 楽しいですねえッ!』 それは、狂気を讃えた男の言葉。 『こんなこと、誰も望まない』 それは、私が殺した少女の言葉。 『じゃあ……せいぜい、頑張って――』 そして、誰かとの別れ。 思えばたくさんあった、苦しかったこと、悲しかったこと、辛かったこと。 何故か明確に思い出せる。 色々なことがたくさんあって、ぐちゃぐちゃになった心のなかでも。 一つ一つの出来事が明確に思い出せた。 そして最も、私の心の深いところにある、景色だけは、どうしてか今はボヤけている事に気がついて。 にわかに足が、止まる。 「―――ぁ」 やっぱり、思うのはただ、『怖い』ということだった。 真っ暗な道を進み続けることも怖いけど、それ以上に自分の内面が恐ろしい。 たった一人で無意味にこんな場所にいる自分が分からない。 私はどこに行こうとしているんだろう。 どこにいるんだろう。こんな場所じゃ、より分からなくなる。 ずっと、重かった。私だけの『戦う理由』が、重くて仕方がなかったはずだ。 背負う重圧、私はそれを、それだけを頼りに、引きずるように歩いてきた。 だけどもうその重みを、今の私は殆ど感じない。 感じることが、出来ない。出来ていない。 先の戦いで、その『理由』が砕かれてから、ずっと。 じゃあこれから、どうすればいいんだろうって。 考え続けていきたけれど、結局一人では答えは出なくて。 かと言って状況に身を任せることは、なんとなく嫌で。 だから私はこんなところにいる。 まだ僅かに残る、ほんの小さな重圧。 頼りにしてきたそれすら放り出して、全部無駄にして、台無しにしてしまえれば、どれだけ楽なんだろうか。 というか、どうして私は、こんなところを歩いているんだろう。 さっさと引き返してしまえばいいのに。そして式のいる場所まで戻って、簡単だ。 いつも通りだ。泣けばいいんだ。 みっともなく、恥も外聞もなく、今すぐ荷物を全部投げ捨てて、座り込んで泣いてしまえばそれだけの―― 「…………」 なのに、出来ない。 涙の一滴も溢れてこない。 ここに来て泣き方を忘れてしまったらしい私の涙腺は、沈黙したまま。 真っ黒い廊下に、一人立ち尽くす。 「――ふ、あ、は………は、はっ」 代わりに出来たのは、ぎこちない自嘲の作り笑いだ。 自嘲だなんて、こんな器用で気味の悪い動作が出来るようになったのは多分、ここに来てからだろう。 行こうか。いい加減、分かっている筈だ。 ずっと知りたかったこと。私が何処に行くのか、何を望んでいるのか。 答えならきっと、すぐ近くにある。その為に、私はここに来たのだから。 『この思いに、白黒つけよう、パンダのように』。 なんて、私が動物ネタに走る時はスランプなんだっけ。 思い描いた詞の一節は、自分が考えたなんて信じられないくらい感情が篭らない。 拳を握り、震えを抑える。 あと少し進めば、すぐそこにあるんだろう。 何かがある。だからこんなにも怖いんだ。 知りたくないから、見たくないから、これ以上怖いものに直面したくないから、私はまた震えてる。 天井が落ちてきそうだから。足場が崩れ去りそうだから。 そんな理由、全部たてまえで、結局のところ私は、この先にあるものを見たくないだけなんだ。 だってさっきからこんなにも、予感がしてる。 嫌な予感だ。吐きそうになるくらい、気分が悪い。 凄惨で、残酷で、容赦のない現実の、襲い来る気配に。 すぐにでも引き返したいって、未だに『逃げ出したい』なんて考えているんだから。 じゃあだからこそ、行かなくちゃいけないんだろう。 『そこに君の望んだ、答えがある』 あの嫌な神父の、望んだとおりに。 そして今の私の、望む通りに。 もう一歩、踏み出して。 もう一つ、角を曲がる。 進み続けた黒い道に色が戻ってくる。 それは館の東端だった。 あまり火の手が及ばなかった場所に出ても、安心なんて心の何処にもあるわけない。 怖い。ひたすら怖い。 だからこそ、行かなくちゃいけない。 なぜなら、きっとこれは、あいつも、辿った道なんだろうから。 こんな私と一緒に戦ってくれた、『彼女』の。 いつかの、玲瓏な瞳を、忘れない。 今なら、どうしてか分かるんだ。彼女の持っていた強さ、その理由。 あのとき彼女は、何かを得ていたんだ。 夜の学校。 血と内臓に塗れた部屋の中で、東横桃子が手にした、喪失。 それを間もなく、私も得ることになるのだと。 『じゃあ、せいぜい頑張って――』 怯える心の奥底で、私は確信していたから―― 「―――ぁ」 今。 「―――――ぁ――ぁ」 眼の前に現れた、見覚えのある扉の前で、それでも私は絶句する。 一瞬にして言葉も、思考すらも、漂白された私は。 忘我のまま、そのドアノブに、手をかけて―― 「――――――――」 そうして、天国のような地獄の、扉が開かれた。 ◆ ◆ ◆ なんて平凡な場所なんだろう。 まず最初に、そう思った。 拍子抜けるほど、そこには何も、変わった物なんてなかった。 血も、臓物も、死も、誰も、そこにはどんな凄惨もありはしなかった。 むしろ焼けた館の中にあるとは思えないほど綺麗な場所。 ただ驚いたのは、そこは一見、殺し合いの場にはあまりにも、そぐわない部屋だったから。 ここは、どこかの学校の音楽室だろうか。 内部の音が周囲の部屋に伝わらないようにと防音設備が整っている。 入り口の近くには大きなドラムが置いてある。楽器のおけるスタンドもある。 部屋の中央には3人ほどが腰掛けれる長椅子が設置されていた。 更に奥に行けば、4つの学習机を寄せ集めて作られたテーブル。 テーブルの上には食べかけのお菓子、飲みかけの紅茶、ケーキが置いてある。 左側のホワイトボードには変ちくりんな絵と、聞き覚えのある言葉が、書いて、あって……。 『目指せ、武道館!!』 「―――――ぁ」 そこは、喩えるなら、女子校の、音楽系の部活の、例えば軽音部の、まるで、部室のような。 「―――――ぁ――――ぁ」 最初に、なんて平凡な場所なんだろう。 そう思った。 そして、直ぐにその正体に気づいた瞬間、愕然とした。 「そん……な……」 まっ黒な道を抜けて、たどり着いた場所は酷く見知った場所だった。 長い長い道のりの果てに辿り着いた。 その場所に、私は帰りたかった筈だった。 見覚えのある、古びた木製の壁。 かつて歩いた、埃の落ちた床。 鈍い日差しの差し込む四角い窓。 ムギの持ち込んだ食器の、詰められた茶色い戸棚。 どれもこれも少し焼けて、黒ずんでしまっているけれど。 だけどここには全部、私に残る記憶の全部が、そろってた。 軽音部の部室。 一歩踏み込んで、扉を締める。 ユメを見ているのかと思った。 だけど、現実だった、私は今、懐かしいあの場所にいる。 信じられない。 帰ってきた。帰ってきたんだ。私は、あの場所に。 あの、暖かくて、微笑ましくて、楽しかった、 ずっと帰りたかった場所に、私はいるんだ。 「―――は、ははっ」 ゆっくりと、歩み出す。 紛れも無いあの日が、ここにあった。 あの日のように、触れるドラムは鈍い音を立てた。 あの日のように、弾くベースの弦は震え空気を揺らした。 あの日のように、歌う歌は宙に響くことだろう。 だから、ここには、あの日の光が残ってる。 「――――そっか、帰ってきたんだ」 ああ、じゃああっちが夢だ、悪いユメを見ていたんだ。 そうに決まってる。あんなひどい現実があるわけないから。 だからもう、悪夢はおしまいにしよう。 きっとこれから部活動が始まる。放課後ティータイムが始まる。 みんながここに揃ってくる。 最初は誰が来るだろう。 いつも元気のいい律だろうか、いつも美味しい紅茶を入れてくれるムギだろうか、 いつも真面目な後輩の梓だろうか、いや意外と唯だったりもするかもしれない。 結局、いつも通りだけど、それが最高に楽しみだ。 どうせすぐにみんな、だらけようとするだろうけど、今日こそ強く言って練習しよう。 それが終わったらちょっとくらい、ティータイムもわるくない。 顧問のさわちゃんを交えて、お菓子食べながらだべって、時間を潰すのも嫌いじゃないから。 何も特別なことのない、平凡な毎日だけど。 私はこれでいいんだ。それでいいんだ。物足りないなんて思わない。刺激がないなんて思えない。 「―――――ーは」 みんなを待つ間は、どうしようか。 私が怠けたらまた流されちゃうからな。 このところみんな練習をサボりがちだったし。 梓も真面目だけど、後輩だから唯と律に丸め込まれかねない。 うん、やっぱり私が、しっかりしないと……。 「――――――ははっ」 そうと決まれば、練習の準備だ。 みんなが来る前に何かしておこう。 アンプの調子でも見ておこうか。 新曲の歌詞を考えておこうか。 それとも、それとも、それとも、 「―――――は、はははははっ」 ずっと、ずっと、満たされていた。 私がいて、友達がいて、こんな当たり前のことが、嬉しかった。 眩しいくらい、輝いていた。 どうしようもなく、それらは今も、綺麗に見えて―――― 「―――――幻想だ」 だからいま、それらは全て、もう帰らない光なのだと、知った。 「こんな、もの」 目の前には探し求めた物がある。 たどり着きたかった場所がある。 懐かしい、景色。 懐かしい、残り香。 懐かしい、誰かの気配。 懐かしくて堪らない、軽音楽部(わたしたち)の、部室(せかい)のカタチ。 ここにはきっと、だからきっと、全部が揃っている。 そしてだから、だからここにはもう、何も、何も、何も――何も無い。 なにも、残ってはいない。 「……………よ」 ここにはもう、何も、無い。 たとえ形があろうと、いつかの光が残ろうと。 そこに、誰も居ないなら、価値なんて、ない。 空っぽの、箱にすぎなくて。 「…………いよ」 滲み、歪み、湾曲する世界。 視界の奥で焼け焦げた煤の色が、この部屋の隅々にまで侵食していく。 黒が全てを覆い尽くし、消えていく陽だまり。 どうしようもない喪失感の中で。 遠く、遠く、遠すぎる誰かの声を、私は聞いた。 「いらないよ」 それは誰の言葉なのだろう。 『この思い出があるから、生きていける』 私の大切な人たちか。 私と、どこか似ていた誰かの言葉か。 だけど、私の答えは、もう、決まっていたから。 「いらないよ」 思い出なんて、いらないよ。 だって『今』、強く、深く、愛しているから。 「いらないよッ……!」 だからそれが、答えなんだ。 砕け散る幻の像。 焼け焦げた抜け殻の部室の中心で、私は一人、蹲る。 誰に向けたものでもない、何処にも届かない叫び声を、上げながら。 「私は『今』が欲しいんだッ!!」 私はそんなに無欲じゃない。 聖人じゃない。 こんな場所で、こんな状況で、それでも命があるから良かった、思い出が残るから良かった。 そんなふうには、思えない。 初めて知ったけどさ。 どうやら私は欲張りみたいなんだ。まだ続けたいと思うんだ。 こんなものを見せられれば尚更に。 だって、こんなにも、こんなにも私は今、痛くて、辛くて、苦しくて、もう止めてしまいたくて、だけどさ。 良かったって、嬉しいって、思うんだ。思ってしまったんだ。 やっとやっと、私は、足りないものが手に入った気がしていたから。 この部屋に入った、その瞬間に、私の『答え』は出ていたんだから。 「あ……うぁ……あああああっ………あああああぁ…………ッ」 決壊した涙腺は洪水のように涙を流し続け、もう制御が効かなかった。 「会いたい……やっぱり会いたいよ……ッ!」 なあ、唯、律、ムギ、梓。 お前たちが今の私を見てなんて言うか、そんなの、分からないわけないけどさ。 でも、私は身勝手にも、そう思ってるんだ。 間違えだらけでも、無様でも、汚くても、愚かでも。 今も、そんなふうに、思えるんだ。だって、やっと分かったから。 今なら、分かるんだよ。 この場所で出会った全ての人達、彼ら彼女らの、戦い続けたその意味が。 きっとこの世界で、私達は、私達だけが弱者だったんだ。 集められた世界の中で、私達だけが、何とも戦ったこともない存在だった。 命なんて勿論、何か大事なものを賭けたこともない。 誰かを蹴落とした事もない。信念をかけて争った事もない。 そうする必要もない場所にいたんだ。 そうだ私達だけが、何も背負って来なかったんだ。 なんて弱さ、なんて温さ、踏み潰されるのも当たり前だろう。 相手が悪すぎるよ。 眼に壮絶な覚悟を湛えていた騎士。 爛々と狂笑する戦国の武将。 守りたい誰かのために奮闘する少年。 彼らは皆、自分だけの戦いを、背負ってた。 だからこそ強固で、そのあり方を、私は力強く、綺麗だとおもって、憧れすらしたけれど。 比べて、私たちのいた世界は、その誰とも違ってた。 私たちの世界は、彼らの居た世界なんかより、ずっとずっとずっと甘くて、柔くて、取るに足らないモノだった。 ありふれた朝を迎えて、ありふれた授業を受けて、部活して、下校して、そして変わらない明日が来る。 ああ、なんて平凡なんだろう。なんて壊れやすい世界なんだろう。 なんて弱くて、不真面目で、気楽で、つまらなくて、くだらなくて、何の変哲もない、 普通で、凡庸で、平坦で、温くて、暖かくて、朗らかで、優しくて、 優しいだけで何一つ特別なコトのない、どうしようもないほど普遍的で、平凡で、だけど、だけど、だけどさ、だからこそ――― 「私たちは、綺麗だった」 この場所に呼び集められた、だた一つきりの。 誰の死も、血も、痛みも、ありはしなかったそれはなんて、尊い世界なんだろうって。 私たちのいた世界は、この場所で、他の誰にも負けないくらい、凄いんだって。 綺麗だよって、大切だったんだって、私も。 今なら強く、強く誇れるから。 全身を押しつぶそうとする重圧。 肩の上に、再び伸し掛かってくる重みを、確かに背負いながら。 まだ、思ってる。 強く、想ってるんだ。 お前たちを。 お前たちに、まだ―――― 「会いたいって、言うんだよ」 たとえそれが、許されないとしても。 「失くしたくないって、泣くんだよ」 たとえなにを、犠牲にしても。 「取り返したいって、願うんだよ」 たとえ届かない、言葉だとしても。 「一緒にいたいって、叫ぶんだよ」 お前たちがいなくなってしまう、それだけは。 「――許せないって、思うんだよ……ッ!」 声は焼けた部室に遠く、祝詞のように、響いて。 許せない。許せない。許せない。 いらない。 ――思い出なんて、いらないから。 絶対に取り戻す。 たとえ何を犠牲にしても必ず、あの日々を取り戻す。 もう一度、私は背負う重圧の全てに、そう誓ったんだ。 ◆ ◆ ◆ 燃え尽き崩壊した一つの世界に、少女が一人、佇んでいた。 「これからも、挫けることはあると思う。けどさ」 4つの机を寄せ集めるようにして作られたテーブルの上に、大きなケーキが乗せてある。 「多分もう、この決断を変えることはないよ」 人の気配のみが濃く残る、伽藍洞の中で、少女は手を伸ばす。 「ねえ、神父さん」 皮肉るように、ケーキに突き刺さっていたカードキー。 「あなたは、何が楽しかったのかな。こんなものを見て、こんなものを残して、さ」 引きぬいて、こびり付いた生クリームを拭い。 「まあ、どっちでもいいけど。私はもう、迷わないから。貰って行くよ」 光沢のあるフォルムに記された、破滅の名を呟いた。 「――フレイヤ」 闇に閉ざされていく、自分の世界を俯瞰しながら。 「私たちの世界を取り戻すためなら」 ここに。 「この世界を壊したって、かまわない」 一人の少女の道が、確定した。 「私たちは、ここにいる。ここに在り続けてみせる。そうだろ、モモ?」 【 Fragments 9 『NO,Thank You!』 -End- 】 時系列順で読む Back See visionS / Fragments 7 『Mercenary』 -アリー・アル・サーシェス- Next See visionS / Fragments 8 『あめあがり』 -Index-Librorum-Prohibitorum- 投下順で読む Back See visionS / Fragments 7 『Mercenary』 -アリー・アル・サーシェス- Next See visionS / Fragments 8 『あめあがり』 -Index-Librorum-Prohibitorum-」 318 See visionS / Fragments 3 『my fairytale』 -秋山澪- 秋山澪 335 1st / COLORS / TURN 2 『ARIA』